作戦名「勇気」
いや、それどこではないぞ
新作戦名「本気」
だ!
本日、黒い人は
とてつもない経験をした
その一部始終を今語ろう
俺が今日した、きっと人生最大の経験
「万引きの被害者」になりました
もちろん俺は店を経営しているわけではない
んーん
んーん
店長ではない!!
今日も今日とて
スーパースーパー好きな俺
まかないを作れと言われたので
会社近くのスーパーに行ったわけ
ここから始まる恐怖体験
残暑厳しいこの時期に
あなたに贈ります…
あーなーたーのぉー知ぃらーなぁい世界ぃぃぃぃ
※あの番組のモノローグ風にお読みください
その日僕は、会社で同僚から、昼飯を作れとたのまれて
そういえば最近作ってないなーなんて思いながら
「わかったよわかったよ」
しぶしぶ引き受けるようなフリして
本当は、久々に料理を振る舞える自分にちょっと高揚していた
それが…運命の歯車が動いた瞬間だったのかもしれません
ウィン
今日のリクエストはドイツっぽい料理
※どんなリクエストだよ
いつもいくスーパーを知り尽くしている僕は、いくつかの食材がそこでは揃わないと分かったから
ちょっと遠い、いつもとは違うスーパーで買い出しをすることにした
「えっと……、お、キャベツキャベツ…・。っと…ウインナーは…」
思った通り、ちょっとウィンナーの種類が充実しているスーパーだった
僕はリクエストにこたえられる昼食が作れる事にほくほくしながらも
「んー、あと一品なんか…」
メニューを決めながら、お買い得食材を物色していた
そのときである
「え?!」
この世の物とは思えない物が見え、僕は自分の目を疑った
売り物をゆっくりと選ぶ客層の中に一人だけ
パクパクパクパクパクパクパク
硬そうなサンダルで床を高速で打ち鳴らしながら
昼ののどかなスーパーを
まさに滑走してくる老婆がいた
目を疑ったのは、その速さと
老婆のその風貌である
…もうあれしか思い浮かばない…
八つ墓的な…あれだ…
肩ぐらいまである貧相になった白い髪を
振り乱したギスギスの今にも折れてしまいそうな老婆が
目だけをギラギラさせて
僕の方へと
およそ一般の年寄りには出せないだろう速さで
向かってくる
「ひぃ!」
目をつぶる
こういう場合、目を背けて再度見た瞬間にはいないっていうのがお決まりじゃないか
目を開ける
「いる!!」
まだいる!
さっきよりも、近くにいる!
老婆はまっすぐに僕に向かって…
いや、違う
途中にいた別のお客さんの
お子様を乗せるタイプのカートを使ってる人のカゴに手を伸ばし
そのカゴの中からウナギのパックを
むしるようにつかみ取ると
それを自分の持っていた
血のように赤黒いトートバッグに力任せにつめこみ
その間、やっぱり僕からはまったく目をそらさずに
また別の棚に陳列されてた出汁の瓶を掴むと
それで殴りかかってくるのかと思ったら
それすらバッグにねじ込んで
とうとう僕の目の前に来たかと思ったら
スッと通りすぎ…
たかと思ったら
僕の手に持っていたカゴにぐん!って力がかかって
何事!!?
とカゴを見ると
さっき加工肉売り場でカゴに入れて
あとはレジでバーコードを読み取ってもらうのを待つだけのウインナー2Pを
ひっつかんでる
しわっしわのがりっがりの手があって
「おい、あんた!」
とカゴを自分の方に寄せると
ギン!!!
至近距離で頬にかかる白髪越しに睨まれ
ひるんだ隙に
まんまと2パックはカゴから消え
その赤黒いバッグの中に吸い込まれ…
金縛りにあったかのように
ヘビに睨まれたカエルのように訳も分からずその場に立ちすくむ僕から
老婆は高速で立ち去ろうと…
「あー、おまえな!」
老婆はそこで店員に捕まった
「何もしてないだろ、私は!」
必至に髪を振り乱し
その捕まれた腕をふりほどこうとする老婆
いや、したけども
なんなら、僕とカートの子供が座ってる部分に乗っけられた子供に
精神的苦痛と今後も残るだろうトラウマを植え付け…
「はいはい、警察いこうね」
慣れているとでも言ったように、店員は老婆を押さえつけ
インカムで警備員に指示を出す
「盗ってないだろ! ほら!」
さっき僕のカゴから…そして棚から盗んで盗ったであろう物品を
鞄から引っ張り出して投げつける
「何もしてないだろ! するわけないだろー!」
投げ散らかす
…こんなに盗ってたのかよ…
※高い商品ばっかりざっと8点ほど…
「はなせはなせはなせはなせはなせ…」
……
万引きを見たのが初めてだったわけではありません
しかし、人のカゴから直で奪ってく人は初めてでした
そして、その尋常ではない速さ
ビクビクもこそこそもせずに
堂々と鞄につっこんでいくその勇ましさはまさに勇気…
いえ、狂気でした…
たしかに老婆は疑われてませんでした
その場にいた全員が確信してました
そいつがやりました!
って…
その後、僕は怖くなって
会社に電話し
メニューの変更を申し出ました
お昼にウインナーを食べるだけで
あの老婆のこの世に恨みがあるかのように睨みつけた顔が
脳裏をよぎる気がしたからです
レジ終わり
気になった僕は聞いてみました
「ああ、常習でね。本当は警察の人にも行ってるし、ここも出入り禁止なんですけどね…」
レジにいたおばさんはにっこり笑ってこたえてくれました
その笑顔が逆に怖くなり、僕は即座にスーパーを出ました
「またおまちしております」
背中にかけられた声に、なぜか…恐怖を覚えながら…
きっとあの老婆は、また懲りずに訪れるんでしょう
もう、ここには来ません
だって、あの人にもう一度会ってしまったら
たぶん立ち直れなくなるから…