食にこだわってるつもりはない


偏食もないつもり



甘いものは苦手


カカオはアレルギー



それ以外のものは、なんでも食べる黒い人



だからね、人の好物に文句を付ける気は全然ないんだけど




これから話ますは、真夏のちょっとした黒い人の身に降りかかった寒い話である




山手線の車内


吊革につかまる俺の前には


白いザックを膝の上に抱えた


髪の長い女性


白ブラウスでジーンズと


いかにも夏向きの彼女の出で立ち



口元がもくもくと動いている



ガム?



なんか噛んでるなーということだけはわかった


しばらくすると飲み込んだ



ああ、ガムじゃないのか…


そんなことを思いながら車窓を眺め……




え!?



衝撃的なことが起こる


目の前の女性


ふわっと手を膝に置いたザックの前ポケットに入れたかと思うと


するっとそこから黒いものをとりだした



見たことのある形状…


いや、しかし……



それをおもむろに口に詰め込む



パリパリパリパリ



目の錯覚と否定をしたものの、想像通りの音がしたので


物体を確認



海苔である



その女性、鞄のポケットから味のりを取り出して


車内でぱりぱりと食べていた



口がもぐもぐと動いている


ああ、さっきのもこれか…



そして目が釘付けになる


よく見ると、白いザックに白いブラウスに


海苔からこぼれ落ちたと思われる粉がぱらぱらと…



ぱらぱら?


もうさ、そういう模様なのかと思わせるほどに


バラバラと…



そうしているうちに


また一枚を取り出し



パリパリパリパリ



……いったい何枚食べていたんだ?


そして、何枚食べるんだ!



気になった黒い人


降りるべき駅をおもわず通過



彼女を見守ることにする



あのー、何より疑問なのは


バックから剥き身の海苔が出てくることなんですけど?


袋をがさごそしている感が全くうかがえないです



もしかして、直ですか?


その海苔、直に入ってますか?




っていうか、もう14枚目だよ!


いったい何枚持ってるんだ!!!





結果、彼女が俺の目の前で口に運んだ海苔の枚数


23枚



少なくともそれより前から食べていたことは事実だから


プラスアルファ




漂う、若干の磯の香り……


黒髪の女性


白いブラウスに海苔の転々が付いた女性


白い鞄から無限に海苔を直で出す女性



まさかとは思いますが…ちゃんと周りの人にも見えてましたよね??


ねぇ、今の人、見えてましたよねぇ!


あなた!!




隣で吊革につかまってたチャラいにーちゃん


彼女の隣に座っていたスーツ姿のおっさん


わっしと二の腕捕まえて



「ねぇぇぇ!!!?」



聞きたくてしょうがなかったんですけど?



「電車内で海苔を食う女? いるわけねーだろ?」



言わないでー!


僕だって、なんとなく現実味がないとわかってるんだから!


でも見たんだもん!


ホントに海苔ばっかり食ってたんだって!



ミネラル成分豊富なおかげで


麗しの緑なす黒髪だったんだって!!




「はいはい、わかったわかった」




話す人すべてにたしなめられるこの話



信じる信じないは、あなた次第です……