彼の名前は天城
下の名前は茎太郎
現在、自宅にて執筆活動中だ
北海道から小説家を目指して上京してきて
下宿生活をする書生
それが彼の現段階での肩書きである
しかし箸にも棒にもかからない小説ばかり書いているため
副業として探偵をしている
偶然に知り合った警視庁の刑事からの勧めで始めた探偵業
もちろん、依頼だってその刑事さんからの仕事ばかりだ
悠悠自適という生活をおくれるわけも無い
書生と探偵、どちらもうだつは上がらない
天城「えーっと、『蒸気船篇』というタイトルはどうだ。蒸気船が一瞬にして消えるんだ」
探偵の依頼が多ければ執筆活動が滞る
食うのに困らない程度の収入と、小説を書くための時間がたっぷりとあることで彼は満足していた
だが……
彼は悩んでいた
頭の中は、先ほど訪れた講談社で言われた言葉が繰り返し再生されている
天城「このシリーズは……、一般にウケないのかな?」
常に繰り返す自問自答
一度は夢をあきらめて故郷に帰る為に荷物をまとめたこともあった
窓から差し込む月明かりが、天城の横顔を照らす
天城「むいてないのかな? むいててぇ~」
ポツリとつぶやいて、愛犬に目をやる
体と心が寒いときの、大切な友人だ
と、愛犬「太朗」は何かをじっと見上げていた
自分と太朗以外誰もいないはずの部屋に、いきなり現れた謎の紳士
めがねをかけ、特徴的な髪形をしている
天城が問い掛けるよりも早く、男は自分の名を明かした
謎の男「私の名前は蟷螂仮面、怪盗 カマキリ仮面である!」
立っていた者は、天城が今書いている小説の主人公だと名乗った
先ほど出版社に持っていってぼろくそに言われたばかりの物語の登場人物
天城は自分の目と耳を疑った
立ち上がり、書棚を凝視する
カマキリ仮面「夢じゃなーいーよ。ちゃんとカマキリ仮面だろ?」
天城「だって、僕の書いてるカマキリ仮面はそんな格好じゃない!」
天城は断固否定した
カマキリ仮面「じゃあ、どんな?」
天城「黒いスーツで颯爽と現れて……」
カマキリ仮面「スーツじゃん」
天城「あ、ほんとだ! …そうじゃなくて、もっとこうモダンな帽子とかかぶってて」
カマキリ仮面「ハイ、帽子。かぶるよ~」
天城「違うよ! …もっとかっこいい特徴があって、それがトレードマークで」
カマキリ仮面「ついてるジャン、蝶ネクタイ。あー、あと髪の毛。もじゃもじゃもじゃもじゃ~」
天城「あー、だから! そんな黒いブロッコリーみたいなのじゃないよー」
天城は泣きそうになった
カマキリ仮面「だって、お前の小説に俺の容姿の説明なんかいっさいかいてないだろうがよー」
天城「それは……そうだけど…」
反論しようとして、天城は男に背を向けた
カマキリ仮面「何? 言いたいことがあるならはっきり言えよ~」
帽子を取って、男は彼の視界に再び入るよう位置を取る
天城の持論だった
頑なにそれを押し通すからこそ、彼の本は陽の目を見ないのだ
冷静な判断力と観察力をもつ知人からもそれは何度も言われたことがあった
カマキリ仮面「いいけどさ。俺が活躍する小説かいてくれれば」
天城「活躍してるだろ!」
カマキリ仮面「活躍してるところはいっさい書いてないだろ! 前のだって、名乗っただけでその後ほとんど出てこなかったじゃないか~」
天城「あれは、あれで…、想いが届けばいいんだよ」
男は首をかしげた
まるで天城を小ばかにしているかのように
天城「うるさいな! なんだお前、帰れよ!」
カマキリ仮面「帰らねーよ」
天城「なんでだよ、帰れよ!」
カマキリ仮面「お前がウジウジしてっから、出てきてやったんだろ~」
天城「ウジウジなんかしてないよ! お前だろ、出番が少なくてイジけてたのは! このウジ虫!」
カマキリ仮面「お前、イモ虫だろ!」
天城「違うね、イモ虫じゃないねー。俺は、あれだよ……神様?」
言葉に詰まって口にした発言はあまりにも子供っぽい発想だった
なじられると思って天城は目をつぶった
しかし返ってきた言葉は予想もしないものだった
カマキリ仮面「そうだな、神様だな」
天城「え?」
カマキリ仮面「だって、お前が俺を作り出したんだから。
全てはお前から生まれた。生み出されたんだ。だから、お前、神様」
天城「あ…」
そのとき初めて、天城は彼のことを自分の小説の中の主人公だと認めた
カマキリ仮面「頑張ってくれよな、神様。これからも活躍きたいしてるぜ~」
天城「ああ、お前もな。次は国家レベルの物を消すからな。そのときは急いで風呂の栓を抜いてくれよ!」
カマキリ仮面「お、出たな得意の説明不足! 何がなんだかさっぱりわかんねーよ」
天城「わかるだろう、普通!」
カマキリ仮面「お前の普通は、普通じゃないんだって」
男は立ち上がった
カマキリ仮面「じゃあな。楽しかった。来た甲斐あったわ。頑張ってくれよ、ダイナミック!」
天城「何だよ、ダイナミックって!」
カマキリ仮面「なんでもねーよ。……これからもいい相方でいてくれよな」
天城「あ、待って! じ……」
最後に一言言いたくて、天城は声をかけた
しかしほぼ同時に男は飛び上がった
ただポツネンと、天城は自分の部屋で座っているだけだった
少し前まで心にあった霧がすっかりと晴れていることに気づく
天城「なんだったんだろうな、あのパーマ…
天パ…か?
ムカつくやつだったなー。ムカつきカフェーやればいいのにー」
天城は窓辺に座った
行灯の横の少し黄ばんだ原稿用紙に、筆を走らせる
天城「怪盗 蟷螂仮面 江ノ島篇 ……っと」
窓から差し込む月明かりが、天城の顔を照らしていた
天城「あ~あ、今日は満月かぁ!」
空に向かって天城はさけんだ
月には先程の彼の笑顔がかぶる
天城「ナンバー1だよー!」
BGM: 茎(STEM)~大名遊ビ編~ 椎名林檎
父さん「なーんて、たかしぃ~! ドッキリでした!!
ビックリしたか? ほんとに主人公が現れたと思ったか? んー?」






