想定を超えた自然災害は頻発しており、ひとたび事故が起きれば深刻な被害をもたらす原発のリスクは一向に解消しない。避難対策も不十分だ。住民の不安な思いをくみ取らず、東京電力福島第1原発事故の重い教訓を忘れたかのような「司法の流れ」を強く危惧する。
争点の避難計画について、高松高裁の決定は、民間バス会社に避難活動の協力要請できないことがあると明記している▽海路避難を行う場合の輸送能力に懸念▽放射線防護施設が住民の人数に比較して不足―の三つの不備を挙げ、万全な避難対策へ先送りは「到底許されない」と断じた。
にもかかわらず避難計画の作成が、電力会社ではなく自治体の責務であり、原発稼働の前提となる「新規制基準」の審査対象外とされている点を指摘。避難計画が合理性、実効性を欠いても周辺住民の人格権に対する違法な侵害行為の恐れがあるとは言えない、と判断した。避難計画の欠陥を批判しながら、原発を止めて事故を防ごうとしないのは矛盾があり、納得できない。国民の命や権利を守るはずの司法の責任放棄と言わざるを得ない。
佐田岬半島の付け根部分にある伊方原発は、7月の西日本豪雨でも12カ所の原発避難路が土砂崩れや冠水で通行ができなかった。巨大地震や津波などの複合災害が起きれば、さらなる道路の寸断や港の壊滅的な損傷が想定される。司法や国、電力会社は半島で暮らす住民が、安全で確実な避難が困難な現状を重く受け止めるべきだ。
決定は四電側が算出した原発の耐震設計の目安となる地震の揺れ(基準地震動)について合理性を認めた。130㌔離れた熊本・阿蘇カルデラの破局的噴火リスクについては、原発の運用期間中に破局的噴火が起こる可能性が根拠を持って示されていない、として住民の不安の訴えを退けた。
だが、現在の科学ではいつ、どの程度の規模の地震や噴火に見舞われるのか、予測することは極めて困難だ。過去10年あまりの間に、国内の原発で基準地震動を超える地震は5回も起きている。9月の北海道地震は震源断層の特定ができていない。限られた知見に頼って合理的であることを安全と見なすことは厳に慎まなければならない。
想定し得る限りの自然災害に備え、それができない危険な原発は動かしてはならないことが福島事故の教訓だった。3号機を巡る裁判は今後も続く。司法は二度と原発事故を起こさせない覚悟で、安全性を問い直す責務を果たすべきだ。