2018年6月7日(木)(愛媛新聞)
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201806070015?sns=1
日立製作所が、英国での原発新設計画について、最終的な投資判断に向けた協議に移ることで英政府と基本合意した。2019年に結論を出す方針で、今後、本格交渉に入る。
原発輸出は、日本政府が成長戦略の一つに掲げている。しかし、東京電力福島第1原発事故を受け、原発の安全対策費が巨額となり、輸出計画の多くは頓挫している。政府は日立の計画を資金面で後押しする考えだが事業がうまくいかなければ損失を被り、ひいては国民負担につながりかねない。多くのリスクを抱えた原発輸出は時代の流れに逆行している。無責任であり許されない。
計画では英中西部のアングルシー島で、改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を2基建設し20年代前半の運転開始を目指している。事業費は福島原発事故の影響で当初の想定から2倍の3兆円規模まで膨らんだ。
事業費のうち、2兆円程度を英側が融資する方針。残る1兆円を日立、英政府と現地企業、日本の政府系金融機関などが投資する方向で検討している。だが本来、原発輸出は民間の経済活動であり、日立が負担するのが筋だ。政府が介入するのであれば、原発輸出の社会的意義について国民に説明し、理解を得ることが不可欠だ。
新設可否の判断の前提となる採算確保の見通しは厳しい。日立は電力買い取り価格について利益を確保できる高い水準での価格の保証を求めているが、英政府は国民の反発が強い電力料金の上昇につながることを懸念し、両者が求める価格には隔たりがある。また、日立はリスクを限定化するため、重大事故が起きた場合の損害賠償の範囲の明確化を求めている。
これらの課題に折り合いがつかなければ、出資企業を集めることが困難となり、計画の撤回もあり得る。さらに、賠償責任に関しては上限を設けることで日立がそれ以上の責任を逃れることにつながる。安全確保に向けた動機付けが薄れる恐れもあり看過できない。
そもそも、海外に活路を見いだそうとした日本の原発輸出は壁に当たっている。福島原発事故前に受注が決まっていたベトナムの原発2基をはじめ、トルコやリトアニアで建設費の高騰などを理由に計画の撤回や企業の参加見送りが相次いでいる。東芝は、米国の原発建設計画で巨額の損失を出し、傘下の米子会社ウェスチングハウス・エレクトリックが経営破綻した。
忘れてならないのは、福島原発事故がいまだ収束せず、原因究明が終わっていない点だ。アングルシー島の地域住民から、こうした状況で原発輸出を進めようとする日本の姿勢に対して批判の声が上がっていることは当然だ。世界で再生可能エネルギーの普及が急速に進む中、原発にいつまでも固執していては取り残されてしまう。日英両政府と日立には、冷静に状況を直視することを求めたい。