https://www.ehime-np.co.jp/article/news201709015309
南海トラフ巨大地震対策で、中央防災会議の有識者会議は地震予知を前提とした防災対応を見直すよう求める報告書案をまとめた。国や地方自治体は「高い確度の予測はできない」との前提に転換し、地域の実情に合わせた防災や避難計画の見直しを進めねばならない。
東海地震に備えた1978年制定の大規模地震対策特別措置法(大震法)は、地震の「直前予知」は可能とし、被害軽減策などを定める。しかし、その後の研究で地震発生のメカニズムが想像以上に複雑と分かり、有識者会議が大震法の抜本的見直しを検討していた。誤った見解に基づく対策は被害を大きくする。研究成果を踏まえた方針転換は当然だ。
政府は「予知は不可能」とした上で、巨大地震につながる地殻変動などの「異常現象」を観測した際、住民に早期の事前避難を促す仕組みをつくる。発生確率を「3日以内に10%程度」「7日以内に2%程度」などと示して避難させ、1週間程度、大地震が発生しなければ通常の生活に戻す方向という。
ただ、予知と異常現象の違いが分かりにくい。異常現象に対しては地震学者からは「科学的に検証された前兆現象はない」との異論もある。異常現象を確認しても、実際には地震が起きないケースも予想され、行政には避難を求めるかどうか難しい判断が迫られる。
東海地震に対応し、国は東海地方と周辺に地震計やひずみ計などの観測網を高密度に展開している。南海トラフ全域で同様の整備をしてデータを広く収集し、研究や対策に生かしていくことはもちろん大切だ。
しかしそれ以上に、予期せぬ事態が起こっても対応できる備えこそ充実させねばならない。建物の耐震化や交通機関確保、医療体制など、国や自治体、住民が一体となって対策を練り上げていく必要がある。
愛媛県で特に重要なのが、四国電力伊方原発の重大事故を想定した避難計画への反映だ。伊方3号機の運転差し止めの仮処分申請を却下した7月の松山地裁決定は、避難計画を著しく合理性を欠くとは言えないと結論付けたが、道路寸断や港湾被害などの恐れがあり、実効性は極めて低い。さらに、今回の見直しを受けて、異常現象のたびに住民がフェリーやバスで事前避難することも、現実味に全く欠ける。予知できず、命を守る手だてが示されていない以上、稼働を認めるわけにはいかない。
きょうは、防災の日。国民も「予知は不可能」との意識を広く共有し、「大地震は突然起こる」との認識で防災、減災対策を取らねばならない。南海トラフ巨大地震で、政府は最大死者30万人以上、愛媛では1万2千人と想定している。常に避難場所や経路を確認し、家具の転倒防止、物資の備蓄などを進め、防災意識を持ち続けることが、生命を守ることになるという基本を徹底したい。