東日本大震災の津波で原子炉冷却機能を喪失し、大量の放射性物質を拡散させた東京電力福島第1原発事故から、もうすぐ6年になる。今も8万人以上が福島県内外で避難生活を送る現実を、国民一人一人が重く受け止める必要がある。
政府は3年前から避難指示の解除を進めてきた。一方的、画一的な対応に陥ることなく、市町村ごとに異なる地域事情に配慮するよう強く求める。「目に見える復興」のアピールを重視するあまり、住民が帰還の道筋を描けないまま見切り発車することがあってはなるまい。
帰還困難区域を除く全ての区域を、3月末までに解除する政府目標の達成は困難になった。福島第1原発が立地する双葉町が、期限までの解除は「できない」と明言したためだ。政府が解除の要件とする生活インフラ整備や、国と町の事前協議などが十分ではないと判断したという。他の自治体についても、要件が整っているかどうかのチェックを改めて促したい。
言うまでもなく解除はゴールではない。住民の帰還後にコミュニティーをどう再生するかが問われている。例えば楢葉町は解除から1年4カ月がたつが、帰還した人は1割ほど。約半数を65歳以上の高齢者が占める。町は基幹産業である農業の担い手となる若者を呼び込みたい考えだが、妙案があるわけではない。復興につなげるためにも、事前協議などで自治体の将来像を明確にしておくべきだ。
居住制限区域と避難指示解除準備区域の住民に支払われている慰謝料への影響も懸念する。期限内の解除を前提に来年3月まで支払われるが、解除が遅れた場合の取り扱いがはっきりしない。避難指示が続く上に、慰謝料が打ち切られる可能性がある。不公平が生じないよう政府は万全を期してほしい。
横浜市などで発覚した、自主避難している子どもへのいじめは社会全体で問題意識を共有しなければならない。放射線衛生学者の木村真三さん(鬼北町出身)は本紙への寄稿で、心の問題を取り上げず科学的知識に偏り、形骸化した放射線教育が一因と指摘していた。事故の影響や被災地の現状を知り、人々の思いを受け止めることが肝要なのだと肝に銘じたい。
安倍晋三首相の今年の年頭所感と年頭記者会見には、東日本大震災や原発事故への言及がなかった。いまだに汚染水発生を止められない福島第1原発の廃炉作業や、放射性物質を含む廃棄物が野積みされた現状を直視すべきだ。未曽有の原子力災害は続いている。事故の検証を脇に置いて原発再稼働を進める姿勢に、改めて異を唱える。
今後、避難住民は帰還か移住かの難しい決断を迫られることになろう。置かれた環境や放射線などへの考え方は、それぞれ違う。多様なニーズをくみ取って生活再建を後押しするよう、政府は柔軟できめ細かな対応に努めなければならない。