プラムくらいの大きさのしわしわの茶紫のボール状を半分に切ると、中から濃い橙色の液体がきみどりがかった種とともにドロッと落ちてくる。パッションフルーツが完熟している証拠である。茶こしで種だけを丁寧に取り除きスプーンですくって喉に落とす。ほんの数さじで一個分のパッションフルーツを食べ終わる。

 カンボジアに住んでいたころ、ほとんど毎日のように果物を食べていた。同率一位は「レッドドラゴンフルーツ」と「パイナップル」、二位は「マンゴー」、三位は「パッションフルーツ」である。バナナは、現地で「ひよこバナナ」と呼ばれているものが最もおいしい。マンゴーは春先に出回る「アップルマンゴー」をぜひとも食してほしい。バナナは濃厚でしつこい甘みという印象だったが、ひよこバナナは爽やかなトロピカル風味の大変おいしいものである。バナナに関してはまだ書き足りないので、詳細は別日のブログに書くことにする。

 友達が「しわしわのパッションフルーツの方が好き」という。全く信用できない。しわしわの果物が美味しかった試しはない。しわしわの柿を持ち上げると赤く熟した中身が段ボールにべたっとくっつく。初冬に買った箱入りの林檎がしわしわになっていたら味はぼけぼけだ。蜜柑など言うに及ばず。しわしわのカビだらけの蜜柑は、周囲に悪影響を及ぼすと小山内先生に昔教わったではないか。つまり、しわしわぼけぼけになったらおしまいなのである。

 屋台のドリンクバーでしわしわのパッションフルーツをソーダ水の中に入れ、ガムシロップと砕いた氷を入れたもの、つまりパッションフルーツソーダを飲んだとき、しわしわのパッションフルーツを選んだ友達の方が甘くておいしかった。こんな衝撃は人生の中で何度あるだろうか。しわしわの方が価値が高いなんて。

 人間もしわしわの方が価値があると思いたい。