最近は、若い頃よりも頻繁に美容院の予約を入れる。美に目覚めたわけではない。白髪である。加齢に伴う自然現象とはいえ、生え際が白いのと黒いのとでは、これほどまでに見た目年齢が変わるのかというぐらい違う(と本人は思っている)。つるつる遺伝子をもつ身内には「有るだけいい」と言われているが。

 いいお店である。スタッフは感じがいいし、美容師さんはとにかく仕事が早い。カットはあっという間に終わる。腕がいい証拠だ。ただここ数年はほとんど行かなかった。その理由を昨日はっと思い出した。耳に櫛が頻繁に当たるのがなんだかとても気になって、別の美容院に行ったのだった。

 耳にざーーっと櫛歯があたる。大したことではないのに大したことに感じてしまう。がたついた机で勉強していても普段は気にならないのに、テストになると急に神経に障りテストに集中できなくなる、あれである。別の美容院では「あ、耳に櫛を当てないでください。痛いので。」など平気で言えるのだが、この美容師さんとは長年の付き合いである。しかも野球の話で楽しく盛り上がっているときに、「あ、耳に櫛を当てないでください。痛いので。」とはとにかく言いづらい。美容師さんと仲良くならない方がいいこともある。洗髪のとき「痒いところはありませんか」も同様である。本当はてっぺんが痒いけど、美容師さんを煩わせるのは気の毒だな、などと思い「大丈夫です」と答える。「頭のてっぺんを10回くらいごしごしやってください。」と言いたいのをこらえて、よい客であろうとする。誰もが経験のある事だろう。

 昨日も櫛歯で数回、耳をとかされた。今日は七夕だから、「次こそは『耳をとかさないでください、痛いので』と言えますように」とお願いしておこう。