林あまり(1963〜)歌人

本名 真理子


同世代の俵万智さんと共に「ライトウァース」と呼ばれ口語短歌を特徴とする

大胆な性描写、暴力を詠み込みセンセーショナルなデビューを果たす
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僕はこの林あまりと云う歌人を今迄知らなかった

先日有る短歌集を図書館で借りた時、その冒頭にこの人の短歌が紹介されていた

その歌は「女うた」の一つにして、男には詠み込めない世界だと

そう言われてみると、気になってネットで作品群を拾い集めてみた

言葉で云うより、作品に触れる事が大事だと思う

俵万智さんは心の景色を歌っているけれど

林あまりさんは、全く別の作品群を為している

それは、"感覚"を詠み込んでいる様に感じる

口語短歌なので、訳は不要と思う
感覚で選ばれた言葉を味わい
自分の中のデジャブ感覚を思い浮かべる

そこで、この人の作品は輝きを増すのだろう

それでは皆さんを林あまりさんの作品へご招待

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結局はいい匂いのする男のもとへ
あきらめたように降る雪の朝

「ここ」と言えても「これ」とは言えない
脚のあいだのつめたい廊下

会える日は化粧を落とす
頬と頬へだてるものはなにもいらない

いっしょに入るとお湯がざあざあ流れてく
この舟で川を下ってゆけそう


*『ベッドサイド』より抜粋


このいまのあなたの匂い
くんくんとただくんくんとこのいまのため

少年のからだは鋏
ゆっくりと青い折り紙切り裂いてゆく

きょう会ったばかりでキスは早くない?
ヤヨイ・トーキョー春花咲きて

犬猫の発情の話おりまぜて
目に星のある青年の誘い

緋のじゅばん備えつけたるホテルにて
マッチ擦りたし今宵のお七

筋肉の収縮はきっとあなたのほうが
よくわかっているわたしのからだ

どの夜もわたしの右に寝てほしい
週五日しか会わないひとよ

ゆっくりと水を飲みほす
居どころの見つからないまま乾いたからだ

花また花 夜の小川に流れゆき
声をたてずに交わりしことも

文脈は無視して犬のように仕える
振るべき尻尾などないままに

クリスマスイヴに精液はじける国
汚れた雪にまみれて祈る

直角に見下ろすかたちうっとりと
している男をあわれむような

いくらでも奉仕しながら快感は
たやすくわたしだけのもの

まっしろな五分ばかりの熟睡を
与えてくれる このひとの腕

首すじをゆるくかまれて あ、とおもう
間もなくあふれはじめる涙 

立て膝をゆっくり割って口づける
あなたをいつか産んだ気がする

空中で泳いだ脚をベッドから
下ろす床は硬くてつめたい

唇に移るぬくもりふくらんだ
あなたを口にふくむ花冷え

ひざまずいて蜜を吸ったら花畑で
するようなことをしているふたり