血を吐くような  倦(もの)うさ、たゆけさ
今日の日も畑に陽は照り、麦に陽は照り
睡るがやうな悲しさに、み空をとほく
血を吐くような倦うさ、たゆけさ

空は燃え、畑はつづき
雲浮かび、眩しく光り
今日の日も陽は炎ゆる、地は睡る
血を吐くやうなせつなさに。

嵐のやうな心の歴史は
終焉(をは)つてしまつたもののやうに
そこから繰(たぐ)れる一つの緒(いとぐち)もないもののやうに
燃ゆる日の彼方に睡る。

私は残る、亡骸としてー
血を吐くやうなせつなさとかなしさ。


雨の日

通りに雨は降りしきり、
家々の腰板古い。
もろもろの愚弄の眼は淑やかとなり、
わたくしは、花弁の夢をみながら目を覚ます。
鳶色の古刀の鞘よ、
舌あまりの幼な友達、
おまへの額は四角張つてた。
わたしはおまへを思ひ出す。
鑢(やすり)の音よ、だみ声よ、
老い疲れたる胃袋よ、
雨の中にはとほく聞け、
やさしいやさしい唇を。
煉瓦の色の焦心(せうしん)の
見え匿れする雨の空。
賢(さか)しい少女(おとめ)の黒髪と、
慈父の首(こうべ)と懐かしい…

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人間の哀しみは何処から湧き出てくるのだろう

中也の詩を読むと、ふとそんな事を考えてしまう
ズタボロな心から
満身創痍の身体から

滲み出る様な哀しみ

孤独な心は無傷ではいられない

そう思わせる中原中也の詩