どんな都会の一等地でも、人々が生活を営む住宅街は全てが眠りにつく時間が来る。
人の温かい気配を遠くに感じる静かな空気。冬ともなれば温もりと言う点では更に手の届かない距離にあると感じてしまう。
常に人に見られる事を職業としている蓮にとって人の気配を薄いヴェール越しに感じる程度のこの時間は少しだけほっと息が付けるのだが、年に一度、この日だけは少し寂しさを感じてしまう。
(俺も現金だな、あれだけ祝ってもらったのに物足りないと感じるなんて)
高級住宅街の高台の一角に聳え立つマンションのエレベーター内。
先程エントランスを通過した際ちらりと見た壁掛けの時計は、午前3時を過ぎていた。
その針がコチコチと動く様を思い出して吐き出した息には明らかに落胆の色が滲む。
愛しい子からの祝いの言葉を今夜のうちに直接聞く事が出来なかった、その事が蓮の安眠を妨害しそうだ。
今日は2月10日。俳優、敦賀蓮の誕生日だ。
映画の撮影真っ只中の現在、早朝から深夜までスタジオに缶詰めになっている蓮を真っ先に祝うのは当然ここ数か月毎日顔を合わせている役者仲間とスタッフ達だった。
「敦賀くん、お誕生日おめでとう!!」
「ハッピーバースディ!!」
時計が午前0時を示すと同時に次々に贈られる、祝いの言葉と花とプレゼント。
普段は気難しい監督が若いスタッフ数名とニコニコしながら大きなケーキを運んできたのには蓮も驚いた。
「ありがとうございます、これからも精進してまいりますのでどうぞよろしくお願いいたします。」
まだ20代も折り返し地点に到達していない若輩者で、人生の先輩方から教わる事は沢山ある。
役者としても人間としてもまだまだ磨かれていきたいと思う気持ちは本当だ。
ただ、本音を言えば「誕生日おめでとう」の言葉を一番最初にキョーコに言ってほしかったし、一番最初に聞きたかった。
念願かなって恋人になる事が出来たキョーコは現在、ドラマのロケで京都にいる。
1週間と言う期間限定ではあるのだが、何故自分の誕生日にその日程が被るのか…とロケを知った蓮は落胆した。
しかしそれはキョーコも同じだったようだ。
「すみません、敦賀さんのお誕生日なのにお会いするのが難しそうで…」
恋人という特別な関係になってから初めての誕生日、キョーコの方も初のイベントを楽しみにしていてくれたらしい。
しゅんと項垂れるその姿を見たら、蓮の心はもうそれだけでふわりと軽くなった。
「そうやって、お祝いしてくれる気持ちが一番嬉しいよ。
初めてキョーコが主演を飾るドラマ、俺が一番のファンで視聴者なんだから。いいモノを撮っておいで。」
現在既に放送が始まっているキョーコのドラマはラブコメ要素の強い学園漫画を原作としたもので、原作者は昔から有名な漫画家だ。
学生は勿論、その漫画家の以前からのファンである層にも高評価で今季一番注目されているドラマとなっている。
アクの強い役…特にいじめ役の印象の強かった「京子」に舞い込んだ初めての主役。
制作発表から暫くは色々言われる事もあったようだが、ドラマ化するにあたって脚本の設定変更も上手に料理されているし、それがまたキョーコの作り上げたヒロインにぴったり合っていて1話放送後からすぐに話題のドラマとなった。
(確かにあのキョーコは可愛いからな…)
普段よく見る制服とはまた違う、モカブラウンのブレザーに赤いリボンタイ。彼女が通う学校の制服もまた爽やかでいい色合いだと思うのだが、キョーコの栗色の髪がはらりとひと房垂れ、その毛先の行き付く先にあったブレザーの優しい色が馴染むのを大画面で見た蓮は新鮮な気持ちになったのだ。
あの日ほど、自分の家のテレビが大きかった事を感謝したことはない。
録画で見た恋人は生き生きとドラマの中で生きていて、蓮は画面の中のキョーコに恋をした。
くるくると変わる表情、凛とした声。のびのびとしたしなやかな体の動き。
キョーコのその総てを蓮は知っていて、だけどそれは知らない「ヒロイン」で。
自分の知らない部分がもうなくなるようにと、その晩は徹夜してまでそのドラマを見続けた。
チンと無機質な音にはっと意識を引き戻され、蓮は目の前を見た。
エレベーターが自分の部屋の階に到着した事を告げる音だった。目の前に自分の部屋までの広くて長い廊下が続く。
いつかはモデルの動きを伝授する為に使ったこの廊下も空調がしっかり効いているはずなのに、今夜はひんやりと冷気を孕んでいるようにも感じる。
広さゆえにコツコツと高く響く足音と鍵を出す音。
全てが、今夜蓮が一人である事を強調しているようでむなしい。
(早く部屋に入って、キョーコのドラマを見よう…)
本物には会えなくても、せめて大画面にアップで映し出される恋人に会いたい。
体も心も重くさせる疲労が、ドアを開けた蓮の思考に蓋をしかけた。
だが、たっぷりとひとつ呼吸をゆっくりとる時間目を瞑り、再び開けた蓮の視界。そこには確かに小さ目の女物の靴が一足、ちょこんと揃えられていた。
「―――っ!?」
京都に発つ前日、キョーコが誕生日プレゼントを先取りで届けに来てくれた際に見たローヒールパンプス。
キャンティがスクールライクなキョーコの服装をぐっと大人っぽく締めていたのを思い出す。
脱いだ靴を揃える事も忘れ、蓮の足はその長いコンパスを最大限に生かしてリビングへ向かっていた。
普段なら静かに開ける扉も少し大きめの音を立てて開く。
家主不在にも関わらず煌々とついた灯りの中、ソファーの向こう。蓮の求めた人はガラスのローテーブルに突っ伏す形で寝ていた。
深夜にしては比較的大きな音だったにも拘らず、ドアが開く音にも規則正しく上下する背中。
その手の先には小さないちごのケーキと皿が2組用意されている。
恐らくサプライズでこちらに戻ってきたのだろうが、スケジュールの調整が大変で待っている間に本格的な眠りについてしまったのだろう。
そう言えば、今日自分のマネージャーがこそこそと何かしているのは見えたなと思い出す。
しかしどんなに順調に撮影が進んでいたとしても、残り日程があと2日も残っている主役をぽんと東京に呼び戻すのはいちマネージャーの力では無理だ。
これは社長が一枚かんでいるなと、蓮の思考回路は即座に愛を叫ぶ男に辿り着く。
愛を何よりも大事にする彼は素晴らしい経営者だし大変お世話になっているのだけど、時々誰も予想しえない事をするので毎度驚かされる。
(まあ、今回のは有難いけど…)
いや、むしろ素晴らしいプレゼント過ぎて完全に頭が上がらない。
暫くこのネタで会う度からかわれるのだろう、チェシャ猫のようにニヤリと不気味に笑う社長の顔が浮かぶと思わず溜息が漏れそうになる。
だが、今は目の前のプレゼントだ。
ソファーにコートや荷物を少々乱雑に放ると、そっと眠る子の隣に膝を付いて様子を伺う。
右の頬をガラスに付けたその寝顔はとても幼く、気持ちよさそうに見えて、蓮の口元に思わず笑みが浮かぶ。
純粋で、ただひたすらにまっすぐだった幼い少女には、あの頃既に心に決めた王子様がいた。今はその王子の座に自分がいる事を幸せに思う。
「―――お姫様。風邪をひきますよ?」
そっと目の前の肩に手をかけ揺すってみるものの、力が優しすぎるのかむにゃと口元が動いただけでキョーコの目は開かない。
もう少し強めに揺すってみれば起きるかもしれない。がばりと飛び起きて「家主様のお帰りに気付く事なく寝こけて申し訳ございませんでしたあぁぁぁ~~~~!!!」と泣きながら土下座を始めるかもしれない。
だけど、すよすよと規則正しく上下する肩の細さに、温もりに。それをする事が出来なかった。
(…今夜はもう、君に会えただけでも十分。)
触れる事も出来ず、せめてテレビ画面で会おうと思っていた恋人にこうして触れる事が出来る。
眠る息遣いを感じる事が出来る。
それは、蓮が今一番欲しかったモノだから。
ささやかな誕生祝いをやっていた為、翌日の…と言ってももう今日だが。蓮のスケジュールは緩くなっていて、珍しく午後にスタジオ入りとなっている。
京都から連れ出してきていると言う事は、恐らくキョーコの方のスケジュールも午前は空けさせているのだろう。
今夜は二人でゆっくりと寝て、朝目が覚めてから一番に恋人からの「おめでとう」を貰おう。
おはようのキスと一緒に。
キョーコの瞼にそっとキスをすると一瞬ピクリと反応を見せたが、余程深い眠りの中にいるのかその瞼は開く事がない。
しっかり寝入っているのを確認してから蓮はキョーコの肩を動かして横抱きにし、立ち上がった。
「クリームが乾燥してる~!!」と朝になって慌てふためくキョーコの姿を一瞬想像したけれど、もうベッドまで運んだら自分も動きたくない。
疲労もあるけれど、キョーコと一瞬たりとも離れたくない。
(ごめんね、キョーコ。ちゃんと食べるからね。)
腕の中に移動させても気持ちよさそうな寝顔を見せる眠り姫に、心の中で謝りながら蓮は寝室のある方へと足を向けた。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ Hearty ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
えーっとぉ…
大変ご無沙汰しております、マックです。
更新、実に1年以上ぶりになってますね…本当にすみませんでしたぁぁぁぁぁ!!!
(スライディング土下座)
某ゲームにハマり、ちょっと横道にそれた2015年。
「今年こそスキビ書くぞ!」と思っていた昨年は、夏頃から仕事を始めまして二次創作自体全く手付かずな状態でした…ホント、何でこんなに忙しいのorz
(今本当は閑散期ではあるのですが、出勤できなくなっちゃった人の穴埋め分をみんなでやっている最中でして…多分次交番はまた繁忙期並みになりそうな予感しかしない)
スキビ二次始めた頃はプレ幼稚園がどーたらこーたら言っていた上の子も、気づけば小学生になりました。わーお。
今は小学校と幼稚園の行事ダブル+ボランティアやら当番やらでひーこら言ってます。
仕事始めて産後太り解消しました、体重10キロ減ったよ。いえーい←
…とまあ、そんなどーでもいいマックの近況は置いておいて。
蓮誕滑り込みセーフ!!
敦賀さんおめでとぉぉぉぉ!!!
かれこれ1年数か月も書くと言う事から離れていたので、完全なるリハビリ作業でマックのメンタルは擦り切れていますなう。←
もう誤字脱字等々あっても心の目で補正してもらえると有難いです…
(でなければそっと教えてください本当にリハビリなんで)
「甘いお話しってなんだっけー?乙女な蓮さんって何だっけー?」とぼけ老人の様にもごもご言いながらPC前に向ったのですが、とりあえず砂糖は無理でも何か甘くなってたらいいな…
乙女な蓮さん、手は出さないよ(笑)じっくり噛み締めてからなんだよ(爆)
そして、全く更新のない間も時々お問い合わせいただいていたアメンバーについて…
本当にこんな僻地にまでお越しいただき、ありがとうございました。
蓮誕当日の今日、もう現在申請は開けております。
こちらの記事 をご覧になってメッセージと共に申請を出していただけるとありがたいです。
(メッセージないとひやかしなのか業者なのかと気を揉んでしまうので…)
暫くブログ書かないうちに「記事を書く」のページもすごく変わってて、正直めっちゃ書きづらいです。
拍手とかも随分前に作ったままなので、もう全くわからないorz
機械音痴には生きづらい世の中や…
(リハビリ開始した事だし、また低浮上ですが頑張ろうと思います。気が向いた時にかまってくださいまし。
さて、明日も仕事だ寝よう(現在1:35←))