こんばんはー!マックです。


※この話は蓮キョ結婚後設定です。

熱中症によるキョーコ記憶喪失のお話し。

途中は色々と辛いですが、ラストはハピエン確定。




皆様、どうぞ体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。







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クリスマスは人の移動も限られているのだろうか。

―――きっと、暖かな室内で最愛の人逹と祝っているのだろう。

一般道も高速もスムーズに走行する事の出来た蓮は、愛する家族や恋人と過ごす人々の姿を想像して少し羨ましくなり、疲労もあって溜息をひとつ大きく吐いた。


高速道路を降りる直前立ち寄ったサービスエリアだけが、蓮が取った唯一の休憩時間だった。

ナビ検索で所要時間が約6時間と出ていた道程。

きっと途中休憩をこまめに入れていれば、7時間以上にはなるだろう。

だが、翌早朝キョーコに会う前にどうしても立ち寄りたい場所があった蓮は、無茶だと分かっていながらも全力で車を飛ばした。


前日まで都内のスタジオでギリギリまで撮影していた。

今も数時間前にドラマのロケをやっと終えたばかりで、正直間もなく齢30になろうという蓮には少々キツイ深夜のドライブだ。

疲労が溜まったせいか、少し痛みを覚える眉間を指で押さえて簡単にマッサージをする。


だが、これくらいで音を上げていては、今もハリウッドで現役で活躍する父を超える事は到底出来ない。

それに、今回はキョーコの方から蓮に「会いたい」と言ってくれたのだ。

自分の誕生日を指定して―――


キョーコから与えられたこの機会を逃しては、彼女に釈明する事も、自分の今の想いを伝える事も叶わなくなるだろう。

彼女の心はきっと、永遠に自分の元へと戻ってこなくなる・・・そんな気がした。



(でも・・・早く着けて良かった。飛ばした甲斐があったな・・・)


目的地の旅館は不破尚の実家だ。

結婚する際「色々あったけど、やっぱり私を育ててくれた人達だから・・・」と言うキョーコと共に、尚の両親にも一度だけ挨拶に来ていた。


とても大きく格式高い旅館。

彼女が不破と共に育ったと言うその建物は数年前に改築されていたが、どこか懐かしさを思わせる庭や飾りが至る所に配置されていて、なるほどこれが日本の侘び寂びというやつかと感心する見事な作りだった。

従業員逹も身だしなみから挨拶まできっちりとしていて、キョーコがとても礼儀正しい御嬢さんに育った理由がよく分かる。

そして、そんなキョーコの幼い頃を見守り続けてきたこの場所に少し嫉妬した。


一週間しか触れ合う事の出来なかった、だけど蓮にとって自分を救い出す切欠になった、幼い頃の夏の思い出。

この場所や長年勤める人間達、そして尚と両親は、キョーコと出会う切欠を与えてくれた恩人であるのと同時に、実親に見向きもされないキョーコの心を慰めてやることもなかった薄情者なのだ。


自分がもっと彼女に寄り添ってあげたかった・・・

大人になって、想いが通じあってから思ったところでもう遅い。

だから、ほんの少しだけ・・・この場にいる人や物、ここにある空気までもを羨ましく思った。



車内のデジタル時計が6時30分を告げる。

旅館は、きっともう暗いうちから板前が仕込み作業に入っているだろう。

きっとフロントも交代制で誰かがいるだろうから、来訪を告げれば車を駐車場まで運んでくれるだろう。


しかし、今はまだキョーコに来訪を知らされたくない。


蓮は一番近くのコインパーキングへと車を駐車し、荷物はそのままにコートを羽織ると早朝の明けきらない暗い道を歩き出した。

自分の記憶が確かであれば、このすぐ近くにキョーコと出会ったあの河原への入り口があるはずだ。

数分も経たないうちに薄い靄の中から発見できたそこは、少々整備されてしまったものの昔のままで、蓮は無事見つけられたことに安堵しながらごそごそと森の中へと入っていった。


落葉樹が多かったのか木々の葉が落ちだいぶ寒々しい印象の中を進む蓮の足は少し速い。

長時間の運転で座った姿勢のままだったせいか、脚が重たく感じるのを振り払いたのだ。

また、眠気が蓮の思考を少しずつ鈍らせてきている。

これではキョーコに会った時、自分の言いたい事がはっきり言えないではないか―――


そこで、川の冷たい水に触れて、目を覚まそうと考えたのだ。

吐く息までも白く曇らせる刺すような空気の中、きっとそれ以上に冷たいであろう水ならば、今日キョーコに言うべき事を纏めるだけの思考を取り戻せるかもしれない。


それに―――キョーコに会う前に、一度自分の目であの場所を確かめておきたかった。

再び彼女への想いを告げる為に、どうしても自分がこの場所へと案内したかったからだ。

その為に、蓮はプレゼントを何とか探し出し、ここまで夜通し運転し続けてきたのだ。



少しずつ空が白み始めている。

闇と同化していた為にあまり見えていなかったが、思いのほか朝靄は濃くかかっていたらしい。

耳触りのいいさらさらと清水が流れる音が聞こえ始めて、周りの木々がなくなり河原へと出た事を知らせる。

そうして辿り着いた思い出の地は、そんな靄のかかる暗い中だと言うのに何故か先客がいた。



(―――誰だ?)


疲労が溜まっている為、よく目を凝らしてみないと見えない。

瑠璃色に染まるぼんやりとした身体のラインは細く、女性である事は何となくわかった。


すると、こちらの気配に気が付いたその背中がゆっくりと振り向き・・・空気を震わせた。




「―――――コーン・・・」









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