こんばんはー!マックです。


※この話は蓮キョ結婚後設定です。

熱中症によるキョーコ記憶喪失のお話し。

途中は色々と辛いですが、ラストはハピエン確定。

(かっこいい蓮さん不在で申し訳ない←)



皆様、どうぞ体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。







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ゆらゆらと揺れる微睡から目覚めると、最近やっと見慣れる事が出来た天井が目に入った。



特別病棟の物とは言っても、結局はいざと言う時折りたためる設計の病院のベッド。

寝返りを打つ度にぎしりぎしりと音が鳴ってしまうのは仕方のない事なのだと早々に諦めてしまったのだが、やはり気になるものは気になる。

サイドテーブルに置いた目ざまし時計は6時を回っていて、もう起きてもいい頃だろうと思ったキョーコは時計の隣に置いていた体温計に手を伸ばした。



いくら若くて回復力が高いとは言え、身体や脳に受けたダメージはそう簡単に完治するわけでもなく。

メンタル面やマスコミ対策も考慮された入院はもうすぐ1か月になろうとしていた。


自力でふらつく事なく歩けるようになったキョーコは、今では看護師の付添なしでも出歩けるようになった。

とは言っても、一般病棟への立ち入りは『京子』とばれてしまうので出来ないのだが。

自動販売機までや特別病棟内、先に申告しておけば屋上などへも立ち入らせてもらえていたので、気分転換の場所はそれなりにある。


(今日は天気が良くなりそうだから、朝食前に屋上へ上がらせてもらおうかしら・・・)


ひとまずナースステーションへ寄ってから屋上へ上がる許可を貰おうかと、カーディガンを取ろうとしたところでドアがノックされる。

「どうぞ」と応えると、からりとドアをスライドさせて入室してきたのは蓮だった。


「おはようキョーコ。今日は起きるの早かったんだね。」

「ええ・・・愛さんが新しく持ってきてくれたパジャマがとても肌触りが良くて。すんなり眠れたんです。」

「そうか、良かったね。」

「はい。」


一瞬、蓮の瞳が悲しげに揺れた気がした。

だけどそれはすぐに優しい眼差しに代わって、キョーコは悟られないようにホッと小さく息を吐いた。


「そしたら、少しだけ時間いいかな?奥の庭の散策許可を貰ってきたんだ。」

「そうなんですか?検温の結果だけは伝えに行きたいので、ナースステーションに寄ってからでもいいでしょうか。」

「うん、いいよ。一緒に行こう。」


キョーコが取ろうとしていたカーディガンを蓮がハンガーから外し、「はいどうぞ」と肩に掛けてくれる。

外履きも簡易棚の下から出してもらって履きかえると、キョーコは蓮が開けてくれた扉を出た。







9月も終わりに差し掛かると、日中の暑さに反比例して朝晩の冷え込みが厳しくなっていく。

まだまだ続く残暑と朝晩との温度差で、木々の葉の緑が少しくたびれたような気がする。


検査棟によって一般病棟からは見えにくいこの奥の中庭もまた、許可がないと来られない場所の一つだ。

歩調を合わせてゆっくりと歩いてくれる隣の蓮をちらりと盗み見て、キョーコはまたひとつ、小さく溜息を吐いた。



190もあるという高い身長の為、キョーコの視線よりもはるか上にある蓮の顔。

その顔は端正で、肌も男性とは思えぬ程肌理細やか。

病室のテレビで偶然見たドラマでの、高い演技力。

そして両親は米国で有名な俳優とモデルと言う、芸能界きってのサラブレッド。


こんなに凄い人が何故自分の夫になったのか、今のキョーコにはとても理解が出来なかった。


(私、本当に何かやらかしたわけではないのよね・・・?)


勿論、二人の馴れ初めについては来訪者達から色々と少しずつ聞いてはいる。

蓮本人からも説明された。


だけど・・・こうして並ぶと、やはり自分は不釣り合いに思えてしまう。

みんなに騙されているのではないのかと、つい疑ってかかってしまう。


どうしても思考が悪い方向へ向かってしまうのは、記憶が戻らない不安定な精神のせいなのか・・・



「だいぶ冷え込むようになったね。大丈夫?寒くない?」

「はい、大丈夫です。」

「そう・・・」

「はい・・・」

「・・・・・・」


会話がそれ以上は続かず、ただ黙ってゆっくりと舗装された道を二人で並んで歩いていく。

散歩道の終点は大きな金木犀の木が真ん中に生えていて、それを歩道ごと囲う様に沈丁花が植えられている。

まだ綻ばない蕾を鈴なりにつけた金木犀の前で止まると、蓮は沈黙を破り、キョーコに話しかけた。


「退院に向けての話、聞いてるよね。」

「はい。まだ記憶は戻りませんが、カウンセリングの先生が問題ないと仰られて・・・」

「うん、俺も先日院長先生から聞いたんだ。」

「そうですか。今日社長さんがお見えになって、退院後どうするかを決めようと言われています。」


体力がだいぶ回復した今、いつまでも病院にお世話になる事は出来ない。

それに、『京子』としての記憶が戻らなくてもキョーコは『女優・京子』をどうするか、決めなくてはいけないのだ。


体調不良を理由に公の場から唐突に消えた『京子』を案じている声は、有難い事に多い。

キョーコはそれに応えなくてはいけない。

いつまでも雲隠れしているわけにはいかないのだ。


「うん・・・今日、俺が来たのはその話なんだ。」

「・・・?」

「社長がさ、記憶が戻るまでキョーコを預かるって言ってたんだ。社長の家ならマリアちゃんもいるし、家政婦も雇っているし。キョーコに何かあってもすぐ対応できるからって・・・」

「そうなんですか?」


棚瀬から聞いていた内容の中に、確かに退院後どこに身を寄せるかと言うものもあった事を思い出す。


自社の社長・・・は病院だと言うのに何故かバトラー姿で見舞いに来た為、強烈な印象を抱いた。

だけど、それがどこか懐かしいような気もして、キョーコは少し気味が悪かった。


あの社長の住む家等とても想像が付かなくて、退院後の行先の最有力候補にされている事に少し驚きも覚えたところで、蓮がキョーコの方へ身体ごとしっかりと向けた。


「だけど、俺としてはうちに戻って来てほしいんだ。今の君にとって、俺は全く知らない赤の他人で、そんな男と1対1で過ごすなんて少し怖いかもしれないけど・・・」

「うち・・・ですか?」

「スケジュール調整してもどうしても仕事でいない時間は多いし、夜も遅くなるけれど。でも、社さんや愛さんがサポートすると言ってくれてるから・・・」

「・・・・・・」

「戻って来てくれないか、キョーコ・・・お願いだ。」


必死な様子の蓮に、キョーコは少し考えた。



確かに、体調はほぼ回復しているが何か不測の事態が起きた時・・・一人で正しく対処できるかは自信がなかった。

何よりマスコミ関係の対応がキョーコは一番怖かった。

芸能界の第一線にに身を置く人間であると言う事は、何か起こった時ただ自分が謝れば済む話ではない。

対処を間違った際には蓮や棚瀬、社長や果ては『京子』に関わった事のあるすべての人が被害を被る可能性があると言う事だ。



それを考えると、社長の家に身を寄せると言うのは一番堅実な方法に思える。



だけど・・・

目の前で自分に頭を下げる蓮を見ると、何故だか胸が苦しくなった。



「・・・家へ、帰ります。」

「っ!」

「だって、貴方と結婚してからずっと過ごしていた家なのでしょう?以前の生活をなぞれば、もしかしたら記憶が戻るかもしれませんし。」

「ありがとう、キョーコ・・・」


キョーコの答えに一度上げられていた頭が、再び下げられる。



―――ヤメテ  アナタガソンナコト シナクテイイノ・・・



「まだ思い出せなくてごめんなさい。どうぞ、よろしくお願いいたします・・・」



キョーコも自然と蓮に頭を下げる。


残暑厳しい秋の高い空が、どこかぎこちない二人のやり取りをそっと見守っていた。









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かーえーろーぉか、もぉかーえろーぉよー♪←

いや、あの歌夫婦そろってめっちゃ好きなんです。