こんばんは!マックです。


※この話は蓮キョ結婚後設定です。

熱中症によるキョーコ記憶喪失のお話し。

途中は色々と辛いですが、ラストはハピエン確定。

(かっこいい蓮さん不在で申し訳ない←)



今回冴菜さん登場しますが、原作で職業とか性格とかあれやこれが謎のままになってますので、適当にねつ造してあります。

決して嫌な奴ではありません。

冴菜きらーいと仰る方はご注意ください。




こんな話ですみません。

ですが、皆様どうぞ体調にお気をつけてお過ごしくださいませ。







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(「おはよう、ございます」・・・か。付き合う前の状態に戻ったような感じだな・・・)



一般の見舞客や患者ではそう簡単に入れてもらう事の出来ない場所のひとつである、病院の屋上。

何か事情があってらしい外注業者に回されなかった分のシーツや布団カバー、エプロンなど色々な物が風ではためく中、色褪せた青いベンチに腰掛けていたのは蓮だった。



キョーコが目覚めた後、初めて踏み込んだICUでのやり取りを思い出していた。


だいぶ血の気の戻った顔色は、いつもの見慣れたキョーコだった。
瞳はまだ焦点をすぐに結べないのか、ゆっくりと顔をこちらに向けながら蓮より先にベッドへと近付いた院長の問いかけに答えている。


透明感のある肌に似合わぬ緑色の酸素マスクが邪魔だ、キスが出来ない・・・

そんな事を考えていた蓮に、キョーコの目が合わせられ、少し戸惑いながら質問された。



『あの、こちらの方は・・・』



まるで友達が連れてきた初対面の人物に向けるような、少しの好奇心と不安が混じった瞳。

そんな目でキョーコに見られた事のなかった蓮は、頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。


(初めて河原で会った時にだって、そんな目では見られなかったのにな・・・)



『あなた、妖精さん!?』



『・・・げ つ・・・ 敦賀蓮!!!』



幼少の頃の出会いを思い出しても、冬の東京で再び出会った時も・・・

二度目の「はじめまして」はあからさまな嫌悪の表情ではあったものの、「不安」が入り混じった顔をされたのは、これが初めてだった。



「本当に、俺の事も全部、忘れたんだね・・・」



あれから2週間が経ち、蓮の周りに付きまとっていたマスコミ関係者達も、事務所からの発表と業界内の新しいニュースに流されいなくなっていた。

やっと一人で静かに考えられる時間が持てると、改めてキョーコの中に「自分」という存在がいなくなってしまった事を痛感し、ぽつりと口に出してみるけれど。

蓮が独り占めしているこの屋上には応えてくれる存在はなく、熱気を含んだ風だけが蓮の言葉を攫って行った。



若く体力もあるキョーコの体は医師も驚くほどの回復力を見せ、今は特別病棟内の個室へと移っている。

懸念されていた障害についても、筋力が落ちている事と記憶喪失と言う点以外は問題はなさそうだ。

何が記憶を戻すきっかけになるかはわからないのでごく親しい人だけ面会を許されているのだが、誰にも敬語を使い、オドオドと「ごめんなさい」を連呼するキョーコの姿は、いつもの活発なキョーコからは程遠く・・・

訪ねてくるすべての人に衝撃を与えていた。



記憶は、未だ戻っていない。




「久遠くん。」



ふいに、日本ではなかなか呼ばれる事のない名を呼ばれ、蓮はびくりと肩を揺らした。
キョーコのように芯の通った、強い意志を感じる声。

だけど、キョーコのよりも少し低いその声の持ち主は・・・

「お久しぶりです、冴菜さん・・・」

「来るのが遅くなってしまって、申し訳なかったわ。」

今は国際弁護士として世界中を飛び回っている、キョーコの母、冴菜だった。


キョーコが倒れた当日はローリィが。

目覚めた後に蓮から連絡は入れていたものの、「裁判が片付き次第向かう」とだけ言われて切られていた電話。

それがいつになるか、さっぱりだったのだが・・・面会が解禁されたこのタイミングで来てくれたのなら良かったと、蓮は少し安堵した。


「でも今夜の便ですぐ戻らないといけないの、次の裁判までの日数がないから。慌ただしくして申し訳ないわね。」

「いえ・・・あの。キョーコ、さんには・・・」

「ああ、さっき会ったわ。とりあえずは元気そうね。」

「はい・・・」

キョーコが母の元を訪ねたのは20歳になる前の事だった。


エルトラ経由でハリウッドのオファーを貰ったキョーコが自身のトラウマを完全に克服する為に、蓮を伴いその頃はまだ国内に構えていた冴菜の事務所を訪ねたのだ。

初めて本音をぶつけ合い、和解する事に成功したのち冴菜は「もう貴女も成人するのだから、後は自分の力で頑張りなさい。」と言い残し、渡米する娘に負けじと世界の司法の場に戦場を移した。

その後も片手の指で足りるほどにしか、蓮もキョーコも会っていない。



(元気そうって・・・)


確かに運び込まれた頃に比べたら、点滴も外れて病院食をちゃんと食べるようになっているし、記憶に関すること以外は比較的しっかりと受け答えできている。

回復が早いお蔭で、看護師が付いてなら院内を車いすに乗って軽く散歩する許可も出ているくらいだ。

だけど・・・本当に、過去の事は彼女の中には何も残されてないのだ。



「貴方の事も忘れてるの?」


実の娘が一時でも生死の境をさまよっていたと言うのに・・・!

蓮が一言何か言ってやろうかと思った時、冴菜が目の前のフェンスの方へと歩みながら言葉を発した。


「はい、そうです。」

「そう。なら、私の事なんか忘れて当然よね。こんな母親・・・「誰?」って言われても・・当然よね。」


冴菜に掴まれたフェンスがかしゃ・・・と鳴る。

以前会った時よりも更に一回り小さくなったように見えるその背中に、蓮ははっとした。



(この人・・・後悔してるんだ。)



「辛く当たって悪かったと、今では思ってる」と、和解に訪れたキョーコに話した冴菜。

全てを打ち捨てて仕事にのめり込み、キャリアを積む事でシングルマザーとしての不安や葛藤、世間の評価を変えていきたかったと話していた彼女は、「だけどこの生き方を後悔したくはないの」とも伝えていた。


だけど・・・娘の記憶から自分が消されてみて、キョーコの大事さに初めて気づいたのだろうか。

相手にされない事の辛さや悲しさを、身を持って知ったのかもしれない。



「何かしてやれることがあれば、なんて思ってたけど・・・今更そんな母親ヅラされても困るって事よねぇ・・・」



冴菜の指に力が込められ、フェンスががしゃん・・・と小さく揺れる。

小さな後悔の波に一人漂う義母を、蓮はただ黙って見守るしか出来なかった。










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きょこたんは強い子だから、きっと蓮の力も借りて冴菜との確執も取り払ってると思うのですよ。

むしろすべてにおいてきょこたん幸せになれ!と願っているので、冴菜との確執も原作でもぜひ乗り越えてほしい。

アンチ冴菜なお方には申し訳ないんですけど・・・