こんばんは!マックです。
※この話は蓮キョ結婚後の話です。
現段階で種明かしは出来ませんが、ラストはハピエン。
ですが、途中は色々と辛い設定です。
(あ、あとかっこいい蓮さん不在中←)
こんな話ですみません。
ですが、決して熱中症を甘く見ないでください。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
「・・・え?」
昨日院長が話した言葉はほとんど頭に入る事がなかったが、今日の話は頭には入っても理解する事が出来なかった。
蓮の隣に座っていた社も信じられないと言った顔で固まってしまっている。
先に簡単に説明を受けていたはずのローリィでさえも、眉間に深く皺を寄せたまま厳しい表情を解かない。
目を見開いたまま表情を止めた蓮を見ながら、院長は静かに話を続けた。
「逆行性健忘症。一般的に言う、記憶喪失の状態にキョーコさんはいます。」
「記憶喪失・・・」
「今自分が置かれている状況については理解する事が出来ていますが、自分がどこの誰で、どんな生活をしていたのかを忘れています。」
「そんな・・・キョーコちゃんは何も覚えてないんですか!?」
社がらしくなく取り乱しながら質問をする。
「記憶喪失にも種類が色々あります。発症前の記憶数時間分がなくなる症状から、自分に関する事柄全てを忘れている事も・・・京子さんの場合は後者ですね。残念ながら、ご自分の名前を答える事も出来ませんでした。ご自身の年齢も、職業も。・・・ご家族の事も。」
「・・・俺は、キョーコの中にはいないって、そう言う事ですか。」
「・・・残念ですが。」
蓮の言葉に、ローリィの友人であると言う年配の院長は静かに首を縦に振る。
シルバーグレーに染められ整えられた頭が揺れるのを、蓮は黙って見ていた。
ただぼんやりと院長を見ている蓮に変わって、社があれこれ質問をしていく。
「でも、体調が戻って行けば記憶も戻るんですよね!?」
「勿論、その可能性はあります。幸いな事に心肺停止の時間は長くはありませんでしたし、運び込まれた時と比べて徐々にですが体の機能は回復傾向にあります。」
「それなら・・・っ!」
「ですが、記憶に関しては「いつ戻るか」を断言する事はできません。もしかしたら、今日中に戻るかもしれないし、明日かもしれない。・・・一生、このままかもしれない。本当に、こればかりは医者でもどうする事も出来ない事象なのです。」
「一生って・・・」
「とにかく、まずは体の回復が最優先です。患者さんが不安を強く訴えるようであれば、その後カウンセリング等でフォローをして行く事になりますし・・・」
社と院長の言葉を、蓮はただ黙って聞いていた。
・・・否、耳には入っているが、頭が理解を拒否している状態を「聞いていた」とは言わないだろう。
蓮は二人のやり取りを、どこか他人事のようにぼんやりと眺めていた。
キョーコが記憶喪失。
自分の事を忘れている―――?
そんなはずはない。だって、あんなに深く愛し合った二人なのだから・・・
医者の言う事なのだから、間違いがないのは解っている。
だけど、キョーコが自分の事など忘れるはずがない・・・そう信じている蓮にとって、社と院長のやり取りはどうしてもリアリティを伴って自分の心に響いてこない。
まるで、ドラマのセット内に立っていながら役を与えられずただその場に座っているだけのような、そんな気がしていた。
そんな蓮をじっと見ていたローリィは、喋り続けている二人を黙らせると蓮に話しかけた。
「蓮、どうする。キョーコ君に会うか?」
***
目が覚めると、先程起きた時と同じ白い天井が目に入った。
少し視線を動かせば、薄い白のカーテンも。
そして左には規則正しく液体が落ちる点滴も、心臓のリズムを電子音で教える機械も。
どちらも自分の左腕や指に取り付けられているようで、左手を動かすのは何だか痛みを感じる気がする。
キョーコは体を動かそうとするのをやめた。
(わたし・・・あれからまた寝たのね。)
はじめに目が覚めた時、側にいたのは見知らぬ看護師だった。
「キョーコさん、わかりますかー!?」
そう声を掛けられたが、それが自分の名前であると気が付くのに時間がかかった。
「貴女の名前は、『キョーコ=ヒズリ』さんですよ。今、貴女は25歳です。女優として、主にテレビドラマや映画などのお仕事をされているんですよ。」
次に来た白髪の男性に色々と質問されたが、キョーコは何一つ答えられなかった。
質問の答えをひとつひとつ確認するかのようにゆっくりと話してくれるのだが、自分の事のように捉えられないのだ。
柔らかなビニル膜越しに触れるような、そんな感覚。
白衣を着た男性が教えてくれる『自分』に関する情報は、そんなぼんやりとした気持ち悪さをキョーコに与えた。
(『ヒズリ』って・・・不思議な響き。)
国際結婚をしたのだと、教えられた。
相手も同じ職業で、日本とアメリカを行き来する俳優だと言う。
「キョーコさんの気持ちが落ち着いているのであれば、会ってみますか?」
片瀬と名乗った男性は、最後にキョーコにそう質問した。
キョーコ自身の心は、落ち着くも何も、まだ全てがぼんやりとしていて何も考えられない状態だ。
『自分』が誰なのか、何故ここにいるのかが分からない。
看護師や医師に教えられる『自分』の事は、全て実感が伴わない。
そんな状態で、何をどう感じ取ればいいの?
キョーコは「会ってもわからないかもしれませんが・・・」とだけ返事をしておいた。
寝入る前の事をキョーコが思い出していると、がらりとドアが開く音がしてペタペタと数人分の足音が聞こえる。
ベッド周りに取り付けられた薄いカーテンの向こう側に小さな影と大きな影が映ったと思ったら、次にはそのカーテンが開かれて先程の医師と共に、背の高い男性が現れた。
「キョーコさん、起きていたんだね。気分はどうだい?」
「はい。今目が覚めました。」
ニコニコしながらキョーコに話しかける医師とは対照的に、もう一人の男性の表情は硬い。
キョーコは不思議に思いながら、近寄ってきた医師に助けを求めた。
「あの、そちらの方は・・・」
瞬間、男の瞳が絶望の色をちらりとよぎらせたのをキョーコは見逃さなかった。
「キョーコさん。この人は『久遠=ヒズリ』さん。先程話していた、君の旦那様だよ。」
優しいゆったりとした口調で答えると、院長は蓮の方へと顔をやる。
蓮は、先程一瞬だけ見せた感情を包み隠して、柔らかくキョーコに微笑みかけた。
「おはよう、キョーコ。」
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熱中症で記憶喪失・・・
嘘みたいな話ですが、本当にあるんですよ!
だから熱中症を甘く見ないでくださいね!