こんばんは!マックです。
本日のこの『あなたに願う色。』は、フリーSSといたします。
いつもこんな僻地へお越しくださる皆様に感謝をこめて。
3年目もどうぞよろしくお願いいたしますm(__)m
※ 蓮→キョ(キョーコは自覚前)
設定はスキビファンブック掲載の『act.X LUCKY NUMBER "25" AFTER ~スウィート ビター~』の後日談的な物です。
これを読んでいないと話が若干見えないかと思います・・・
(いや、そんな話ですみません)
゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆
サカサカサカサカ・・・・・・
静かなラブミー部室に、呪いの色鉛筆の芯が紙の上を滑る音が響く。
縁取った文字の中をひたすら行き来する芯はすり減り、綺麗な色を色紙に写していく。
今書いているのは「社 倖一」―――
「・・・最上さん?なに、してるの?」
一人でいたはずの室内なのに、突然名前を呼ばれた気がして走る鉛筆が止まる。
いつ入って来ていたのだろうか。
呼ばれた気がしてキョーコがハッと顔を上げると、机を挟んだ目の前の椅子に蓮が座っていた。
その後ろには顔を真っ青にした社・・・
「えっ?えっ!?敦賀さん!?どうして・・・!?」
「一応ね、ノックはしたし声もかけたんだけど・・・何をそんなに熱心に書いてるの?」
にこやかにキョーコに話しかける男の表情は、やけにキラキラと輝いている。
それが蓮の機嫌がよろしくない時の「似非紳士スマイル」である事を理解しているキョーコは、心の中で悲鳴をあげた。
(アレを片付けた後で良かった~~~っ!!!)
不幸を願いながら色鉛筆をフルに使って先に仕上げていたレインボーな「不破尚」の黒縁色紙は、奏江に不評を買った為全部片付けていた。
もしあれを蓮に見られていたら―――こんな似非紳士スマイルで済むはずがない。
大魔王が降臨していたに違いない。
「モーッ!!」と怒っていた奏江も怖かったが、大魔王蓮はもっと恐ろしい。
知らず自分の窮地を救ってくれた奏江に心から感謝した所で蓮に再び呼びかけられたキョーコは、ビシッと背筋を伸ばし、自分の持っていた色鉛筆を蓮の目の前にまで持ち上げた。
「はいっ!実はマリアちゃんからこの色鉛筆と色紙をバースデープレゼントとしていただきまして!!僭越ながら社さんの健康運上昇を願いながらお名前を書かせていただいていたのでございます!!」
「・・・健康運?」
キョーコの持つ緑色の色鉛筆と社の名前が書かれた色紙を、交互に見やる蓮と社。
色紙は縁がオーロラに輝くどこにでもある色紙のようだが、色鉛筆の方は先に剣の持ち手のような精巧な細工が付いている。
キラキラと輝くその細工をもっと近くで見たくなった蓮は、キョーコの手を包んで自分の元へと引き寄せた。
その途端、酷い顏のキョーコの口から「ひぃえぃぃぃぃ」と奇妙な悲鳴が漏れ、蓮の視線は色鉛筆からキョーコに向けられた。
「・・・何かな、その態度は。」
「た、態度と仰いますと!?」
「俺に触られるのが随分と嫌みたいだよね、傷つくんだけど・・・」
「滅相もございません!畏れ多いのですー!だから離してくださいぃぃーっ!!!」
顔を真っ青にしながら自分の手を引きはがしにかかるキョーコに、蓮は少し淋しさを覚えながらその華奢な手を離す。
色鉛筆ごと無事に自分の元へと戻って来た手を擦りながら、キョーコは再び喋り出した。
「この縁の色紙に、思う人の名前を願う色で書いて塗ると、幸せになるんだそうです。社さんはよく胃の辺りを抑えられてたり顔色良くない事があるので、体調がよろしくないのかと思いまして・・・」
「ふーん・・・」
「そうなの?ありがとうキョーコちゃあぁ~ん!!」
この部屋に入って来てからずっと顔色の悪かった社は、ホッと肩を撫で下ろしながら涙をだーっと流した。
キョーコが自分の名前を一心不乱に色塗りしていた事が蓮の癇に障った―――それは、静かに怒れる蓮の背中を見てとっくに気が付いていた。
その色塗りが、自分の為を思ってだった・・・
優しいキョーコの心遣いに感謝すると同時に、「なら先にぜひ蓮を想ってくれないか――っ!!」と叫びたい気持ちでいっぱいな社の心境を、恋愛のスイッチが壊れているキョーコは知る由もない。
だばだばと漫画のように涙を流しながら、社はキョーコの手を取りブンブンと大きく振った。
「ありがとうキョーコちゃん!!だけどね!?最初に蓮の願い事を叶えてやってくれないかなーーっ!?」
「え、敦賀さんですか?」
「そうそう!!物事にはすべて順番と言うものがあってね!?君を大事に想ってる蓮からぜひ!ぜひぜひ!!お願い事をしてほしいんだ~っ!!」
「や、社さん!?」
「・・・はっ!そうですよね!?いつも大変にお世話になっておきながら、私ったらなんて失礼な!!」
うっかり自分の想いを吐露してしまった社に蓮は一瞬焦ったが、そこはさすがのラブミー部員一号。
またの名をラスボス。
「君を大事に想っている」の部分を完全にスルーして、何故「最初に蓮の願いを~」と熱心に言われたかを結論付けたキョーコは社の手を振り払い、まだテーブルを挟んだ向かいに座り続けている蓮の横へとスライディング土下座を敢行した。
「どうか不義理な後輩をお許しくださいませーーーっ!!」
「いや、そんな不義理とか思ってないから。」
「でもいつもたくさんにお世話になっておきながら気が付かなくて・・・」
「そんな、お世話になってるのは蓮のほ」
「や・し・ろ・さん?」
「いえ、何でもないです。」
これ以上の失言を重ねそうな社に釘を刺すと、キョーコの土下座を辞めさせるべく蓮は膝立ちでキョーコの前にしゃがみこんだ。
「最上さん、不義理でも何でもないよ?君が大事だと思う人たちの名前は、誰から書いてもいいと思うよ?だって・・・マリアちゃんや琴南さん、それにだるま屋のお二人の名前はもう完成してるじゃないか・・・」
そう言って、机の上に目をやる。
そこには書きかけの社の他に、色紙が何枚もあった。
恋愛を願ったピンク色のマリアの名前、美容の奏江はオレンジ色、そして仕事運の青はだるま屋の二人の名前を彩っている。
すべて、キョーコが心を込めて色を塗った色紙達だ。
キョーコの方へ振り返った蓮の目は優しかった。
「ね・・・?だから、俺の事は気にしないで?最上さんが願ってくれるのなら、俺の運は最強だから。」
「敦賀さん・・・ありがとうございます。」
優しい蓮の言葉に、ぐすんと鼻を鳴らして上目遣いで謝罪を述べるキョーコ。
感情的になっていた為に頬が染まり、くりんとした瞳が潤む顔は、恋する男には最強の凶器。
間近で目にした蓮は思いっきり固まってしまった。
「ねえねえ、キョーコちゃん。蓮には何の運を願うつもりなの?」
蓮が固まっている事など気が付かない社は、色鉛筆と色紙を交互に見ながらキョーコに質問する。
社の声にはっとしたキョーコは、「えっとですね」と言いながら立ち上がった。
「敦賀さんはまだ悩んでる最中なんですよ。お食事事情も気になるので健康運もお願いしたいですが、お仕事運も更にご活躍を願いたいので・・・」
「じゃあ、まだ決まってないんだったら恋愛運を祈ってやってくれないかい?」
「え・・・?」
「このピンクか赤の色鉛筆がそうなんでしょ?」
急に弾んだ声になった社の言葉に、一瞬キョーコは詰まった。
かつて「ここで大事な人は作れない」と悲しげに呟いていた蓮。
そんな彼にも、いつかは大事な女性が出来るかもしれない。
いつか、隣の女性と幸せに微笑む蓮の姿を見る事になるかもしれない。
それを、自分は心から祝福する事が出来るのだろうか―――
キョーコの胸にツキンと小さな痛みが走る・・・
それに気が付かない振りをして、キャッキャとはしゃぎながらピンクと赤の色鉛筆を持った社の隣に立つと青の鉛筆を持った。
「やっぱり、敦賀さんは私の目標なんですからこれからも天上にて輝いていただかないと!仕事運にします!」
「えー?そうなの~?恋愛・・・」
「大先輩なんです!!目標なんです!!まずはお仕事が先です!!!」
「あ、はい・・・ソウデスカ・・・・・・」
恐ろしい形相で詰め寄るキョーコに色鉛筆を突き付けられ、その色が移ったかのように真っ青な顔に逆戻った社。
コクコクと壊れた人形のように頷くしか出来なかった。
すると、蓮のジャケットの胸元に入った携帯が震え出した。
ずっと固まったままだった蓮がごそごそと動き出す。
二・三返事をすると折り畳み携帯をパクリと閉じて、じゃれ合っていたキョーコと社の方へと向いた。
「すみません、社長から呼び出しが・・・」
「お、そうなのか?じゃあ俺も主任の所にそろそろ行こうかな。」
「お二人とも、お忙しかったのですか?と言うか、私ったらお茶も出さずに!」
「たまたま時間が空いてたから少し寄ったんだ。こっちが押しかけたんだから、気にしないで。」
「でも・・・」
再びしょぼんとしてしまったキョーコに、「じゃあ・・・」と蓮は耳打ちした。
「君が書いてくれた俺の名前の色紙、くれる?大事に飾るから。」
「え?そんな事でいいんですか?」
「君が願いを込めてくれるんだろう?俺にとってはすごいお守りになるから。」
「そうですか?」
「そうなんだよ?だから、最上さんのとっておきの願いを込めてね・・・?」
「わかりました!不肖最上キョーコ!全力で敦賀さんの名前を書かせていただきます!」
「うん、楽しみにしてるよ。じゃあまた。」
「ありがとうね、キョーコちゃん!」
ビシッと敬礼をすると、クスクスと愉快そうに笑いながら蓮は社と共に部室を後にした。
再び一人になったキョーコは、社が持っていた為にケースから出ていたピンクと赤の鉛筆を手に取った。
とっておきの願い―――
このピンクの色鉛筆で蓮の名前を書けば、彼の恋愛運上昇を祈る事になる。
いつか願いが叶い、想い人と優しく微笑みあう蓮の姿を想像するだけで、急に胸が苦しくなる。
息が詰まってしまいそうになる。
ピンクの色鉛筆を握るキョーコの手は、自然と力がこもっていった。
「・・・ぷはぁっ!い、息が止まるのは何で・・・?私、そんなに邪悪な念しか込められなくなってるのかしら。」
さすがに1分も息を止めた状態は辛くなって、盛大に息を吐き出したキョーコの思考は、「恋愛=邪道」へと一気に突き進む。
そうよこの色が悪いのよ!とばかりに乱暴にピンクの色鉛筆をケースに戻すと、もう1本転がっていた青い色鉛筆を持って眺める。
「そうよ、敦賀さんにはこれからも私の目標でいてもらわなきゃ・・・よぉーし!まずは社さんから完成させないとね!!頑張るのよ、キョーコ!!」
エイエイオー!と握りしめた青鉛筆を掲げたキョーコは、元の椅子に座るとケースの中に緑以外の鉛筆をしまい、再びサカサカサカと緑の色鉛筆を滑らせ始めた。
サカサカサカサカ・・・・・・サカサカサカサカ・・・
時々手を止めてはピンクの色鉛筆を眺める。
その度に走る胸の痛みをキョーコが理解するのは、あと少しだけ先のお話し―――
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何だかんだで結局社兄さんが若干不憫な感じですがw
蓮キョを優しく見守る兄様が大好きです!
でも蓮キョはもっと大好きです!←
それなりに頑張ったので、話に深みが出てるといいなあ・・・(当社比)
頑張りまっす!
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