こんばんは、マックです。
今月お話しの更新が少なくて本当にすみません…orz
怪我したり看病したりしてますが、ひとまず何とか生きてます、ハイ。
今夜は以前ぴちどろ用に書いた『Good morning Bubble Bath』『good evening MyDearest』の後日談…ではなく、前日談を書きまして。
そちらをお届けいたしますです。
2作品を知らなくても前日談なので、これだけでも十分わかるようにはなっております。
『Good~』×2はどちらも拙宅では別館行きになるので、全部読みたい18歳以上の方はぴちどろで読むのが一番早いかなー…←
注意書きとしては、成立後設定(お付き合い経過1年)って事くらいでしょうか。
あ、桃はないですよ桃はw堂々表で出してるしw
この作品を生み出すきっかけを作ってくれた方へ、感謝をこめて。
『Parting tears』 = 別離の涙(でもマックが調べたくらいだから、英文の正確さより語呂が大事なのです←)
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夏の終わりの夕方は嫌い。
だって、この どこか物悲しくなる空気が堪らなく嫌なんだもの―――
誰も通らない廊下から初秋も思わせる高い青を見上げて、キョーコはひっそりと溜息を吐いた。
秋の特番の為に組まれたバラエティ番組の1泊2日のロケ。
準レギュラーとして出演しているキョーコもそこに呼ばれていた。
無事にタイムライン通りに全撮影を全て終えて事務所へ戻ってきたところ、ラブミー部室の前で待ち構えていた社から「蓮が待っているから行くように」と突然言われたのだ。
蓮が今日この時間に事務所に寄る予定があるとは聞いていなかった。
いつもなら、キョーコが聞かなくても蓮の方から翌日の仕事内容や上がり時間について話してくれるのに・・・
キョーコは首を傾げながらも社から聞いたフロアーへと足を運んでいた。
(昨日電話で話した時、そんなこと言ってなかったのにな。突然の変更だったのかしら・・・)
『誰かに絡まれたりしてない?キョーコは可愛いから・・・心配なんだよ。』
昨晩、宴会を中座してかけた蓮との定時連絡。
その時も蓮は自分のスケジュールに変更がある事は言っていなかった。
気にしていたのは共演のお笑い芸人達に口説かれていないか、絡まれていないか。
そんな事ばかり。
「もーっ!こんな素うどんみたいなつまらない子口説かなくても、もっと可愛いアイドルも一緒にいるんですよ!?」
そう言っても蓮は「でもキョーコは可愛いから・・・」と、永遠に話がループする勢いで「可愛い」を強調する。
見かねたマネージャーが電話をキョーコから取り上げ、切り上げさせてくれたくらいだ。
(あ、あんなに可愛い可愛いって連発しなくても・・・)
蓮の発音する「可愛い」という言葉を思い出すだけで、ぽぽぽっと頬が勝手に熱くなる。
そして、蓮が無駄とも思える程「可愛い」を言葉にする理由も同時に思い出した。
「キョーコはもっと自分に自信を持つべきだよ。『謙遜』と『卑下』は違うんだ。キョーコは自分が思っている以上に本当に可愛いんだよ?」
蓮と1年以上付き合っても、付き纏う不安。
周りには美人も可愛い子も沢山いるのに、何故自分なのか―――
それは交際期間が長くなるにつれてどんどん大きく膨らんでいた。
過去幼馴染みに言われたから気にしているだけでは決してなく、世間一般的なキョーコの評価は「演技力は抜群の新鋭女優だが、素はそこら辺にいそうなちょっと可愛い子」。
そんな自分に対して蓮は「誰もが認める一流芸能人」。
どの年代からも支持を得る蓮と、隠れ蓑にいいからと未だラブミー部在籍の自分。
いくら幼い頃の夏の思い出があるからと言ってもあまりに不釣り合いな二人の交際。
キョーコは時々、「どうして私なんですか?」と聞いてしまっては蓮に諭され、後悔していた。
(どうして私は敦賀さんの言葉を信じられないのかしら・・・)
蓮の言葉は素直に嬉しい。
愛されていると実感できる。
だけど、まだ公にはしていない・・・出来ない交際。
目の前で可愛いアイドルや綺麗な女優達が彼にアプローチをかけるのを見てしまうと、どうしても思考はネガティブに走り出してしまう。
いつか捨てられるんじゃないか。
飽きられるんじゃないか。
(っ!ダメダメ!もっと自分を高めればいいって決めたじゃないのっ)
またネガティブ思考にハマり始めた自分を奮い立たせる為に、キョーコはペチンと自分の頬を強めに叩く。
思考の小部屋に足を踏み入れつつも実際の足は止めていなかったので、気が付けば蓮が待っていると言う応接室の前に到着していた。
中にいるのは蓮一人と聞いていたが、念の為控えめにノックする。
すると「どうぞ」と声がして、キョーコは小さく開けた隙間からするんと華奢な体を滑り込ませ、すぐにドアを閉めた。
蓮は黒皮のソファーには座らずに窓際の壁に立ち、ブラインドの昇降コードを長い指で玩んで待っていた。
夏の強い日差しがブラインドのシェードで幾分か和らいでいるが、それでも鳶色の蓮の髪を赤茶に変える。
この夏外でのロケが多かった為に一段濃くなった肌の色も、光を反射して白く見えた。
何をしている姿も絵になる蓮にドキリとしながら、キョーコはそろそろと足を進めた。
「ごめんなさい、待たせてしまって・・・」
「いや、そんなに待ってないよ。大丈夫。」
「事務所に寄る御用があったんですか?」
「うん・・・ちょっと社長に呼ばれて、ね・・・・・・」
いつもの優しい笑みなのに、どこか今日の蓮の表情は陰りがある。
それ以上に、二人きりで会う時にはいつも挨拶と共に抱擁があるはずなのに、今日は窓の側から一歩も動かない蓮に、キョーコは違和感を覚えた。
「敦賀さん・・・?」
「今日、海外からオファーが来た事を告げられたんだ。」
「・・・え?」
「よくあの人・・・クー・ヒズリを撮ってる監督なんだけど、たまたま放送された『Dark Moon』を見たらしくて。それで、次の作品のキーマンをぜひやってほしいと打診があったらしくて・・・・・」
いつもより険しい表情の蓮。
それはきっと、自分が一度挑戦して挫折を味わった舞台への切符を再び手に入れた事への喜び。
そして、自分が目標にし、いつか超えなくてはならない存在である父へいまだ感じる畏怖と、その男に惚れ込んで何作も世に送り出した監督に見初められた緊張。
そのすべてが蓮の体の中で激しく渦巻き、複雑な感情をそのまま表情に乗せているのだとキョーコは思った。
蓮の過去を総て聞き、「クオン」としての蓮も総て受け入れたキョーコには、蓮が抱くその複雑な感情の色もよく理解できる。
だって、今の自分も・・・・・・
チリチリと肌に伝わってくるその思いを受け、キョーコは一度ぐっと両手を握ると、まだコードで遊んでいた蓮の手をぎゅうっと握りしめた。
「おめでとうございます!ハリウッドから声がかかるなんて、やっぱり敦賀さんは凄い人です!私の尊敬する大先輩です!撮影はいつからなんですか!?」
「え・・・本格的に秋になる前には・・10月中には必ず現地入りしてると思う。」
「そうなんですね!じゃあ今年はグレイトフルパーティーには参加していただけないんですね~!マリアちゃんが寂しがりますね~!」
「キョーコは?」
「・・・っ、え?」
「キョーコは寂しくないの?」
「わた、し・・は・・・」
蓮の不安や緊張を解きほぐしたくて早口に捲し立てて喋っていたけれど。
・・・否、本当は自分の不安を隠したかっただけなのだと、蓮に問われてキョーコは気が付き、言葉が止まってしまった。
海外からのオファー。
それは、少なくとも月単位で蓮と離れると言う事。
どんなに忙しくとも逢瀬の時間を捻り出してきた二人にとって、それは初めての「遠距離恋愛」の通告だった。
そして、このオファーをきっかけにどんどん遠征が増えるであろう事は間違いない。
この初の「遠距離恋愛」は、二人が永遠に愛を誓えるかも試す試練の始まりにすぎないのだ。
「私は大丈夫ですよ?だって敦賀さんが世界に認められるんですもの!寂しくなんてありません!」
「本当に?」
「本当ですよ!もう、敦賀さんったら何を仰るんですか~!」
「だって、キョーコの手・・・震えてる。」
「っ!?」
蓮に言われてハッと目線を自分の手に落とすと、大きな蓮の手に添えるように握った手は無意識に震えていた。
そっと外されるとその震えは明らかで、蓮の手にそっと包み込まれてもまだ止まらない。
「キョーコ・・・」
「違うんです!私、嬉しくて震えてるんです!敦賀さんがいつか本当の姿を公表する為の第一歩なんですもの!敦賀さんの努力が実ったんですもの!だからっ・・・」
「キョーコ!」
悟られたくなくて必死に下を向いたまま早口で喋っていたキョーコだったが、涙の粒が蓮の指にぽたりと零れてしまったところで蓮に強く抱きしめられた。
「・・・っ、私、ダメな子なの・・・敦賀さんが認められて嬉しいのに・・・ほんとうにうれしいのに・・・」
「うん・・・」
「なのに・・・っく、離れるのは寂しいだなんて・・・行ってほしくないだなんて、なんてワガママ・・・ふぅぅっ!」
「我儘なんかじゃないよ、その気持ちは・・・」
「・・・っ、敦賀さん・・・っ!」
敦賀さんの複雑な気持ちが分かるだなんて、なんて詭弁。
本当は自分が一番複雑で我儘じゃないか。
蓮の腕の中で嗚咽を漏らしながらキョーコは思った。
俳優として、一人の人間として尊敬している蓮が、活躍する場を世界に広げるのが嬉しいのは本当。
だけど、その分自分との時間が減ったり長期間会えなくなるのが怖いのも本当。
消化しきれない想いは涙と一緒に溢れて零れて。
次々とキョーコの頬を、顎を濡らしていく。
蓮はぼろぼろと零れるキョーコの涙をそっと唇で拭うと、瞼に、睫毛に、頬にとキスを一つずつ落としていった。
そしてキョーコを抱きしめる腕に更に力を込める。
「本当は、俺も離れたくない・・・キョーコと一緒にいられるのなら、キョーコとの交際も「素性」もすべてを公表して、連れ去って行きたい・・・」
濡れた睫毛を熱く揺らす蓮の言葉は、キョーコの心も大きく揺らした。
その言葉が嬉しい。その気持ちが本当に嬉しい。
すべてを捨てて彼に付いていけるのなら、一人の女性としてこれ以上の幸せはない。
だけど、以前言ってくれた「「京子」の一番のファンでありたい」と言う気持ちも、持っていてほしい・・・
自分が「敦賀蓮」の、そして「コーン」・・・「久遠・ヒズリ」の一番のファンでありたいと願うように。
大分時間が経ち、ブラインドの向こうに見える雲の色が変わってきた頃、やっとキョーコの涙は止まった。
ずっと抱きしめていた蓮の腕の力が緩み、蓮はキョーコの顔を覗き込む。
「もう、大丈夫・・・?」
「はい・・わたしは大丈夫です。ワガママ言ってごめんなさい・・・」
「だからね?キョーコは我儘なんかじゃないよ?」
「蓮・・・」
「えっ?」
また落ち着く前の応酬が始まりそうな予感に、キョーコの腰に回した蓮の腕はぐっと力が入る。
しかし、キョーコの腕は蓮の胸を強く押し返した。
そしてこの1年、乞うても滅多に呼ばれた事のない「名前」に、蓮は全ての動きを止めた。
「蓮の言葉は、嬉しい・・・嬉しかった、です。だからわたし、私も一緒にハリウッドからオファーがもらえるくらい、立派な女優になります。」
「キョーコ・・・」
「だから、いい子にして待ってます。蓮も、頑張って来てくださいね・・・?」
「・・・キョーコ、ありがとう・・・」
慣れない名前を必死に呼び想いをたどたどしく告げるキョーコの様子に、蓮はキョーコの「見送る」決意を悟り、そっと抱き寄せ唇を合わせた。
長い時間キョーコの涙を吸っていた蓮の唇は甘じょっぱい味がして、ふと開けたキョーコの瞳に映ったのは、蓮の耳の向こうに見える薄群青のキャンバスに浮かぶ茜色の雲。
そして白く薄く浮かぶ月の競演。
それを見たキョーコの胸は、ぎゅっと締め付けられるような激しい切なさを覚えた。
(ほら、やっぱり・・・夏の夕方は嫌いよ―――――)
落ち着いたはずの涙がまた急に零れてきそうになり、キョーコはそっと目を閉じた。
それは、しばしの別離を嘆く涙か。懐古によるものか。
キョーコ本人にもわからない。

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この話はマックらしさがふんだんに盛り込まれたような…いやいや、情景描写に相当手こずりましたがな!
相変らず内面重視の暗めですみません…
今回、携帯ユーザー様ってどれくらいいらっしゃってるのだろうかと思ったところから、拍手タグをちろっと変えてみました。
実はマック本人が読む時は携帯からな人間なもので…(ROM専時代からこれはずっと変わらない)
にゃんこ可愛いですよね!
実は1か月も前からずっと通ってたサイト様のをお借りしたのでした♪
そして貼るのに丁寧に解説くださった某様、ありがとうございますー!
スキビ☆ランキング ←いつもいつもありがとうございますm(__)m