…シャランという音とともに、プリンセスローザ様が胸元からするんと服の中へ滑り落ちた。

「えっ、あれ…?」
「ん?最上さんどうした?」

隣を歩いていた敦賀さんが、私の止まった動きに気付いて足を止めてくれる。

「いえ、プリンセスローザ様の留め具が外れてしまったみたいで…ひゃあ、意外に冷たいなぁ……」

胸元に滑り込んでしまったネックレスは、肌に付けていたものの少し冷たくて、思わず肩を竦めてしまう。
慌てて胸元を広げてネックレスを取り出し、留め具が壊れたのかどうかを確認する。

「……良かったぁ!留め具が壊れたわけじゃなかったのね!」
「えっと…最上さん?」
「はい、何でしょう?」

名前を呼ばれて顔を上げると、腕組みをして無表情の敦賀さんがいた。
……私、何かしたかしら?

「いくら事務所の廊下だからってね?もう少し場所を考えて?」
「?はい…?」
「その…胸元、見えちゃうから……」

そう言うと、頬を少し染めてそっぽを向く敦賀さん。
………もしかして見られた!?

「ももも申し訳ございません~~~!!こんな貧相なものをお見せしてしまって…っ」
「いや、見てないから!だから今後は気を付けるんだよ!?」
「はいっ!以後気を付けますっ!!」

公衆の面前でとんでもないものを晒してはいけないものね!
敬礼をびしっと決めると、敦賀さんははぁと一つため息を吐いた。
…何それ?一体何のダメ息つかれたのかしら?
どーせ色気も可愛げもない、世話の焼ける後輩ですからねーっだ!

「…とりあえず、留め具が壊れたわけじゃないのなら着けるかい?俺が着けてあげるよ。」
「えっ?そんな、いいですってば…」

遠慮の言葉を述べているうちに、敦賀さんは私の手からプリンセスローザ様をさっと攫って行ってしまった。

「いいからいいから。はい、後ろ向いて?」

くるんと後ろを向かされたと思ったら、敦賀さんの両手が伸びてきてすっとプリンセスローザ様を胸元に乗せ、シルバーのチェーンを首に這わせる。
首にあたる少しひんやりした感触と、ふんわり漂ってきた敦賀さんの香りに、思わず鼓動が一拍忘れて跳ねた。

(…きっ、聞こえてないよね!?ばれてないよね!?)
ドキドキしながら、でもこの時間が早く終わってほしいような、もうちょっとだけこのままでいたいような…
なんだかよくわからないふわふわした気持ちになっていると、敦賀さんの指がつうっと項を一撫でした。

「うひゃんっ!ななな何を…」
「ねぇ、知ってる?贈られたネックレスはその送り主がつけてあげるんだよ?自分で着けるものじゃないんだ。」
「でもこれは私が作って…」
「でもプリンセスローザは俺が贈ったバラから出てきただろう?…だから俺が贈ったも同然なんだけど…」

さらに項を一撫でされて、一気に羞恥心に火が灯る。

「つっ、敦賀さんの破廉恥!いいです!暫くローザ様にはお休みいただきますから~っ!」
「うん…休んでもらってる間に留め具、新しいのに直してね?じゃないと次は失くしちゃうかもよ?」
「はいっ!今度は頑丈なのをつけますです!!」

留め具だけじゃなくて、私の心の鍵も頑丈なのに取り替えよう…!
敦賀さんの笑顔が少し艶を帯びたのを見て。
そう誓わずにはいられなかった。




************


短編は成立前のが書きやすい。

元ネタはなんかの番組で、ハリセンボン春菜が『ネックレスは自分で着けるものじゃない!男に着けてもらうもんだ!』
…と、叫んでるのを風呂上がりのドタバタの中で聞きかじったことから。

おぉ、男前発言だな~と感心しました。

しかし(ネックレスを贈られた)渡辺直美が着けてもらおうとしたところ、チェーンが短くて首完全に締まってましたけどね…
笑っちゃ悪いが、つい笑えました。