お題企画「桜」の没ネタ。
クオリティの低さにより、企画に上げるのを断念しました。
と言うわけで、久し振りの短編アップです。


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最早花見ではなく、ただの酒盛りになった船内で、俺は何度目かの溜め息をついた。



今夜は屋形船を借り切っての夜桜見物。
今年は何故か、所属する俳優やタレント達も強制参加を言い渡された。
お祭り好きな社長の突発的な発案だが、何年も所属している人間は「またか…」と既に諦めモードだ。
所属タレントも参加…つまりは最上さんも来るわけで。
俺は社さんにお願いして、花見の後の仕事もずらしてもらって休めるようにした。
最近は最上さんも忙しくて、なかなか会う時間が作れなくて。
出来れば少しでも最上さんと一緒にいる時間がほしい……。

そして今日の集合時間。
何十艘もある船の中で、俺は最上さんの乗り込んだ船を探し出した。
…しかし見つけたのは良かったが、その船はすぐに岸を離れてしまい。
尚且つ俺も、普段こういった行事に参加しない事から珍しがられ、あっという間に女の子達に囲まれてしまったのだ。



仕方なしに乗った船の中で、『敦賀蓮』の笑顔を貼りつけるのもそろそろ限界が近い。

「すみません。蓮は少し疲れが溜まってて酔ってしまった様なので、風に当たらせてきます。」

ずっとベタベタ張りついていた女の子達を社さんが制し、船首へと連れ出してくれた。
船首は人が3人くらいしかいられないような狭さだが、ちいさなデッキになっている。
俺はそこにどっかりと腰を下ろした。

「お前なあ…イライラするのも分かるけど、そんなに簡単に『敦賀蓮』の顔を捨てるなよ。」
「分かってたのなら、もっと早くに助けてくださいよ……。」

社さんにまで八つ当たり。
大人気ない今夜の自分に若干へこむ。

「とにかく、俺は中で見張っててやるから。
お前はゆっくり休んでおけ。」

そう言うと、社さんは船の中へと戻っていった。
一人になったのはいいが、今夜は事務所の全員が参加しての花見会。
船の多さも尋常ではなく、すぐそばに何隻か見えており『一人になった』という気がなかなかしない。
春とはいえ少し肌寒いからか、どの船も障子は閉めている。
それでも漏れ聞こえる宴席の声は、静かに一人…と言うよりただひたすらに孤独感を煽る。

(本当に、花見してるんだか、宴会してるんだか………)

ふと騒がしい隣の船を見た時、驚いた。
俺と同じように船首のデッキに出ている人物がいて。
それが今日ずっと求めていた最上さんだったからだ。

(………すごく綺麗だ)

船内から漏れる薄い光が、岸の桜を見る彼女の横顔を照らしている。
その表情は憂いを帯び、大人の女性としての色気を湛えていた。

(いつの間にそんな表情を………)

それはまるで恋をしている女の顔で、俺は今までにない焦燥感に駆られた。
あんな表情をさせる男は一体誰なんだ…
きみは俺を置いて、どこかへ行ってしまう気なのか……
だけど、その美しい姿を何か形に残しておきたい気持ちも出てきて。
気が付いたら、携帯をズボンのポケットから取り出し、彼女を写真に収めた。

「………!敦賀さん!」

ちょうど保存し終わったタイミングで、最上さんは俺に気付いた。

「やあ。…どうしたの?そんな所で…」
「桜を見てたんです。中の方々は『花より団子』な方が多くって、つまらないんですもの。」

ふふっと彼女は笑った。
桜は既に半分ほど散って、川に花弁の絨毯を作っている。
俺と最上さんの船の間でも、その絨毯はたゆたゆと揺れていて……
これが本当の絨毯なら、今すぐ彼女の元へと渡っていけるのに。
そんな夢さえ見させてしまう。

「敦賀さんはどうされたんですか?」
「ん…その……少し疲れててね。」
「敦賀さん?もしかして、あんまり召し上がられずにお酒を飲んでるんじゃありませんか?」
「………」

図星なので、言葉につまる。

「もうっ、敦賀さん!ちゃんと食べないとダメですよ!?胃にも悪いんですからねっ!」
「じゃあ、後で最上さん付き合ってくれる?」
「いいですよ!不肖最上キョーコ、敦賀さんのご飯チェックしっかりいたします!」

食事の心配をしてくれるのは嬉しいが、俺に足りないのは食事よりも最上さん……だから、さりげなくこの後のお誘いもしてみた。
あっさり了承してくれるのは良いのだが……先程の表情の事がものすごく気になる。

「そう言えば最上さん。さっきは誰の事考えてたの…?」
「さっき……?っ!!」

最初は何の事言われているのか分からなかった最上さんだが、みるみるうちに顔が赤くなっていった。
………こんな恋する顔を引きだせるなんて。
恐がらせたくないのに、どす黒い気持ちが顔を覗かせようとする。

「べっ、別に敦賀さんが気にされる事では…」
「すごく気になりますよ、お嬢さん…?」

真っ赤になって話から逃げ出そうとする最上さん。
だけど俺だって逃がすわけにはいかない。
他の男の所に行かれる前に捕まえなくては…!

少し考えた最上さんは、携帯を取り出し、電話をかけだした。
すぐに俺の電話が鳴る。

「…………敦賀さんの事ですよ。」

耳に押しあてた携帯電話から、最上さんのささやく声がすぐ近くで聞こえた。

今夜、この距離をゼロにしてくれるのは。
水面に揺れる花弁か、それとも………


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支離滅裂。
駄文度マックスでごめんなさいm(__)m