彼女の名前は『高遠杏子』と言った。
母親の再婚で中学から東京で暮らしているが、昔は京都に住んでいたらしい。

俺と出会ったのはその頃だと言う。


「敦賀さんをテレビで見た時から、私にはコーンだってわかってたわ。だって、コーンはコーンだもの。コーンが元気だってわかって、とっても嬉しかった!」

「コーンが俳優になったから、私もこの世界に入ったのよ?」

「今はまだいい役がもらえてないから有名じゃないけど、それでもコーン…敦賀さんは私を見つけてくれたわ。」


彼女の言う事を全て理解するまでに時間はかかった。
だが、思い出した夏の日の出来事は確かに彼女の言うとおりだし。

…現実に彼女は俺が『コーン』だと知っている。
俺ですらたった今思い出した、夏の日の思い出。

あの京都での思い出が『久遠』の中で一番輝いていた。


どこから記憶喪失の件が漏れたのか気になりもするが、告白した初恋の女の子まで忘れた事に、俺は大ショックを受けた。



「…でも、その…いいの?だってキョーコちゃんには『ショーちゃん』がいるんじゃないの?」
「えへへ、ショーちゃんには東京に来る前に…振られてきたの。今の私はコーンが目標で、コーンが全てなんだ。だから、敦賀さんに告白された時は嬉しくって、でも不安にもなっちゃって。お返事できなかったのよ?」


こてんと首を傾げる少女。
俺はそっと彼女の頭を撫でた。


「…もう、私じゃダメ?嫌いになっちゃった?」
「そんな事ない!俺は…ずっとキョーコちゃんが好きだったんだ。キョーコちゃんが初恋の人なんだよ?そんな簡単に嫌いになんかならないよ。」
「ホントに?!私すっごく嬉しいっ!」


ぎゅっとしがみ付いてきたキョーコちゃんを、俺は壊れ物を包み込むかのように、そっと抱き締めた。





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さぁ、彼女どこまで暴走させましょうか。
自分書いといて何ですけど、ホント鬼な設定ですよね(汗)
でも偽物きょこが出てこないと、この話先に続けない。