電話機
子供のころ欲しかった物が、ファッション電話機。
電電公社(現NTT)の黒電話に対して、輸入品のおしゃれな電話機です。
レストランやブティックで、たまに見かけました。
「欲しいんだけど・・・、誕生日のプレゼントでも無理かな?」と父にねだると
「あんな物は、すぐ壊れる」
一言のもとにはねつけられました。
父は黒電話信仰の電電マンだったのです。
そんな父がある日、ペパーミントグリーンの電話機を家に持ち帰りました。
「えっ、どうして!? 黒電話がいいんじゃないの?」
私の言葉に苦い顔で
「黒電話が一番いい。でも、割り当てがきて、買い取らないといけなかった。仕方がないから使う」
そんな父でしたから、私が一人暮らしになって取り付けてくれた電話も、シンプルな電話機。
「留守番電話じゃないと、駄目!困る!お願い!」 私が懇願しても
「そんなものは、すぐに壊れる」
主人との結婚が決まったとき、私はやっと自由に電話機を選べるようになったのです。
「友達から結婚のお祝い何がいいか聞かれてるけど、電話機でいい?」
主人に一応尋ねました。
結婚後は主人が住んでいるマンシャンで、そのまま暮らすことになっていました。
そこにあったのは、何の変哲もない電話機。
「いいけど・・・、シンプルなほうがいいよ。本当は黒電話が一番いいんだけど」
お見合いで結婚することになった主人もまた、黒電話信仰のNTTマンだったのです。
結婚でやっと望みの電話機を手に入れた私が、次に欲しかったのは自動車電話。
息子が幼稚園に行くようになりました。
小さな幼稚園で、「スクールバスを使わず、親と園が言葉を交わしあいながら子供を見守り育てる」というのを方針にしているところでした。
ですから、全園児、親が送り迎えしていました。
迎えに行ってみると子供がすでに遊ぶ約束をしていて、「今日は誰々ちゃんのお家に行く」と宣言します。
親同士は「よろしいんですか?」
「ええ、どうぞ、どうぞ。私が一緒に連れて帰りますから、5時ごろお迎えにきてください」
4時30分までは、天国です。
息子がお友達を連れてきてもいいように、家事をお迎えの時間までに済ませているので、私の自由な時間が生まれます。
でも、お迎えの時間が近ずくにつれ、不安がこみ上げてきます。
お家がわかるかしら?
よく行かせてもらうお宅だったらいいのですが、初めての所で、夕方の住宅街。そして、知っているところでも迷子になれる私の特技。
ナビでもつけていればまだよかったのですが・・・いえ、ナビは今でも「リルートを開始します。リルートを開始します」と反抗的で、十分な信頼関係を築けていません。
皆さん同じように困っているのでしょうから、簡単な地図でもお互い持っているのはどうかな、なんて考えていました。
でも、ほかの人はたいして困っている風でもありません。
「途中なんですけど、あっ、あの白いビルのお隣ね」・・・自動車電話をかけてきていました。
実は、私、勘違いして息子をお金持ちの多い幼稚園に入れてしまっていたのです。
当時住んでいたのは、幼稚園激戦区でした。
近くに5つの幼稚園があり、一番ボロの幼稚園を選びました。
ボロなのは当然でした。他の園は設備費が入園のとき5万円、進級のたびに2万円ずつだったのですが、息子が通ったところは、入園時の2万だけでした。
それなのに、お金持ちが集っていたのです。
私も、お母さんたちの車が殆ど外車なので、なんだかおかしいなとは思っていたのですが(笑)
外側の車は国産でかまわないのですが、中の自動車電話が本当に便利そうで羨ましかったです。
ちょうどそのころ、私の父はNTTを退職して、ドコモに勤めていました。
「自動車電話って高いのかな?あったら便利なんだけど」
「基本料金だけでも、月に6万。お前が社長になったら買いなさい」
今は、携帯があるから便利です。
料金も庶民レベルに下がってくれました。
携帯のメールは夢みたいな通信手段ですね。 人類が手に入れたテレパシーだと思います。