入社して三回目のクリスマス・イヴ。


ケーキとローストチキンの大量廃棄にびくびくする日。


『24』さながらの展開速度で刻々と時間は過ぎていき、ジャック・バウアーのように東西奔走、あの手この手を打つが、形勢はけして逆転されぬまま、終戦、ポツダム宣言受諾、マッカーサー上陸、東京裁判、判決:A級戦犯。(要するに、販売期限終了、結局売れ残り、上司が来て、怒られる)というのが、例年の傾向だ。


18時。


5年前に買った10年前の中古の原付に乗って、ケーキの配達に出かける。この時期になるとピザの配達などでサンタクロースの衣装を着た青年をよく見かけるが、それは社会的に定着しているから、「ああ、ピザ屋さんかー」で終わる。


例えば、侍がちょんまげをしていてもそれは何ら不自然なことではないけれど、サラリーマンがちょんまげをしていたらそれはやっぱり変なわけで、ピザ屋さんがクリスマスにサンタの格好をしてピザをお届けするのと、僕がサンタの格好をしてオンボロの原付でケーキをお届けするのとでは全然わけ違う。街の人々にとって僕は単純に「奇妙」、というより「不可解」なものとして映っている。しかし、これも仕事だ。


薄暗く、入り組んだ路地を彷徨いながら、お届け先の家を探す。通りを歩く人々の目は険しさを増す。まるで変人を見る目だ。そして、今の僕は確かにまるで変人だ。


やっとの思いで家を見つけ出し、インターホンを鳴らす。出てきたのはパパだった。世の多くのパパたちがそうであるように、彼もまたクリスマスを義務的な家族サービスとしか捉えていない。「ごめんね、今子供たちいないんだ」とパパは言う。家を少し離れてから、真っ赤な衣装のまま煙草を吸う。「サンタの格好なんてまるで必要なかったじゃないか」。でもサンタさんの格好をして煙草を吸うのは良くないなとチキって、すぐに火を消した。



今年は例年と違って、よく売れた。



大して苦労もせず、完売目前となり、悠々と他の仕事をしていると、店の目の前で火事が起きた。



消防車が十台くらい集まり、辺りは一時騒然とした。



消防署員や救急隊員のあまりの多さに「おいおい…」とビビッたが、結局小火だった。



帰り支度はすっかり済んでいるのに、野次馬たちが店に集まり、ものすごい混んだので帰るに帰れなくなって、またサンタの格好をして、レジをフォローした。




そんなこんなで店を出たのは2時過ぎで、例のオンボロの原付で環状二号線を走っていた。下はスーツ一枚なのでものすごく寒い。「さみー!!」と大声出しながら、それでもスピードをぐんぐん上げていると、流れ星が流れた。



とても大きな流れ星だった。







お疲れ様、そして、メリー・クリスマス。