青沼透(仮名、高校一年生)は「透(とおる)」という名のとおり、透きとおるほどあからさまにムッツリスケベな高校一年生の男の子。
ムッツリスケベというのは「むっつり」しているからこそ、ムッツリスケべなのであって、「あからさまなムッツリスケベ」というのは言語上、大きな矛盾をはらんでいる。しかし、彼を修飾するのにあたって「スケベ」ではなく、やはり「ムッツリスケベ」の方が矛盾を圧倒し、妥当なように思える。眼鏡をかけたまま眼鏡を探している人に「眼鏡かかってるよ」と言うのと同様に、彼はスケベであることを隠しているが、何と言ってもあからさまなのだ。
青沼透は自分の通う高校が男子校であることに劣等感、また、フラストレーションを強く感じている。
「店長は共学ですよね?やっぱり女の子がいて楽しかったですか?」
「・・・。まあ・・・」(店長、困惑)
「そうですか・・・」(青沼、落胆)
「でも男子校だって、合コンとか紹介とか色々あるでしょ?」
「この前、友達の友達と一緒に遊んで、そのあと連絡先交換したんですよ」
「いいじゃん、いいじゃん」
「昨日、彼女とメールしてたら彼女、いきなり自分の初体験の話とかし始めて、自分、ドン引きしちゃって・・・。友達みんなにメール転送して送りました」
「それ、最低じゃん・・・」(店長、人として指摘)
「そうですか?」(青沼、指摘され不満)
「その子はかわいいの?」
「かわいくはないかな。胸は大きいけど」
「ふうん・・・」
「でも胸が大きいと言っても、うちの姉ちゃんに比べれば全然。小さい頃からずっと見続けてるから、多少胸が大きいからって、どうってことないんです」
「そんじゅそこらの胸じゃ動じねえぞ、と?」
「そうですね」
青沼透の家庭環境はいささか問題を抱えている。母親はB’zの熱狂的なファンで、家では四六時中B’zの曲が流れ続けている。青沼家では「稲葉浩志」のことを「稲葉様」と呼ぶことを義務付け、彼を神格化している。お姉さんは同様に「嵐」に心酔(青沼透自身は「浜崎あゆみ」を崇拝)。お姉さんは某空港に勤め、CAを目指し、日々励んでいる。24歳、処女。青沼透に言わせれば「処女なのに、知識だけはハンパじゃない」、だそうだ。そんじゅそこらではない胸を持つ彼女は風呂上り後に透の思春期的な事情はおかまいなしに全裸でリビングを歩き回り、彼女だけではなく、母親もまた同様だそうだ。食卓はいつも母親と姉の下ネタで終始すると言う。青沼透が何故、まるでモニュメントかのようにムッツリスケベなのかも納得させられる。
そんな青沼透が「クリスマス・イヴに休みがほしい」と言ってきた。理由を問うと「ちょっと家庭の問題でどうしても都合が・・・」と言う。「家庭の都合って何よ?」と追及すると「それ言えません・・・」とかたくなに口を閉ざす。通常、理由が曖昧なまま休みをとらせることは許可しないが、休みを希望する彼の様子には鬼気迫るものがあったし、代わりも見つかったのでこれを承諾した。
これは自分の直感だけど多分、青沼透は「本当は好きな子とデート」とかそういう彩り豊かな真相は持ち合わせず、本当に「家庭の問題でどうしても都合がつかない」のだと思う。
クリスマスに対する特別な感情は年々薄れていくばかり。
しかし、今宵、青沼家で行われるであろうクリスマス・イヴの催しについては非常に興味深い。