一人の少女がいた。その少女は何よりも歌うことが好きだった。しかしある時おきた戦争でその声は奪われた。少女は悲しみ嘆いた。
-私の声はどこ?
呟くが誰にも聞こえない。
その少女が声を失った3年後、何の前触れも無く、一人の少女は静かに死にました。


-私の声を返して。





最近空耳ばかりが聞こえる。しかしいつも耳鳴り混じりで何を探しているのかが聞こえない。その度に褐色のいい肌の青年は、すまんなぁ、と申し訳なさそうに呟く。真っ赤に実った庭のトマトをもいで汗を拭う。
ぱたと落ちた滴が地面を濡らす。あぁ、これが血じゃなくて良かった、もう何も壊さんですむんやな。あの時の思い出にピントを合わせて目を閉じる。


-私の…を…nいズかえ..sて.ノイz…

誰やろ…
ふと目を開けるとチョコレート色の髪をした青年が立っていた。
「…何してんだよ。立って寝てたのか?」
「や…寝てへんよお。」
「ふぅん。そんな事より腹減った。トマトの冷製パスタが食べたい。」
「はいはい、ほな休憩しよか。」
地面においてあったトマトの入った籠を抱えて2人で家へ向かう。

-私の声を返して

「?なんかゆーた?」
「は?何も言ってねーけど?」

また空耳なんかなぁ…

家にはいると普段使うことのないラジオから昔の歌が流れてた。今は亡き歌姫の歌声が。




ラジオを止めないで
(私が生きた証を、)
(あなた方が奪った幸福を、)
 寒い。息は白い。
空を見上げれば二月の月は美しく輝いている。
 喪服姿で海に足をいれると、騒ぐ波の雑音が、体のなかを血液より速い速度で駆け巡る。

重い…

 服が水を吸って、足を掴まれたような感覚に陥る。誰かが俺の足を引っ張って、水の中に引き込もうとしているんだ。
 背中に突き刺さる街の光。
俺らを歓迎しない世界。
 ざぶざぶと、反感の波音をさせながら沖へと進んで腹の辺りまで海に浸かる。
四肢がバラバラになって流されて行く。錯覚、錯覚…

「ちくしょう…」

 あ、と思った時には涙が零れていた。
下半身を海に掴まれる。
引きずり込まれる。
俺はもがきも助けを求めもしない。そうだ、いっそのこと、そのまま…

―ばしゃっ!!

 バランスを崩して、仰向けに倒れた。手を月に向けて、掴めないからともがいて。

「はぁ…」

 涙は止まらない。その雫は俺の体を埋めていく。あぁ、願わくばこの、蒼の殺された黒の世界で、



きみへの誠実がすべて嘘にかわる前に



(もう二度と会うことの出来ないお前に会いたい。)





題 「fjord」様より【きみへの誠実がすべて嘘にかわる前に 】