「ほぼ日刊イトイ新聞」に、『ブータンの雨と幸せの話』というタイトルで、糸井重里氏と御手洗 瑞子(みたらい・たまこ)さんという女性との対談があるのを知りました。
http://www.1101.com/bhutan/index.html
御手洗 瑞子さんのプロフィールは、
東京生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2010年9月より1年間、ブータン政府 Gross National Happiness Commission (GNHC)首相フェローとしてブータンに滞在。

とのことです。出身大学などは不明ですが、マッキンゼーに入社されているというだけでかなりの才女なのだとわかります。「25歳でブータン初の首相フェローになった女性」と紹介されていますので、現在26か27歳でしょう。糸井氏が昨年ブータンを訪問した際に、現地を案内してくれたのだそうです。
この対談では、糸井重里氏がブータンだけでなく、この御手洗さんという女性も「面白がって」いるのだと。確かに。糸井氏は、御手洗さんの論理的で知的な部分だけでなく、感性の鋭さ・文章の魅力もしっかり引き出しています。
それでさらに読んでみたのが、「日経ビジネスオンライン」に彼女が連載していた記事「ブータン公務員だより」。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110610/220675/
読み応えのある文章です。
特に私が興味を持って読んだのが、「日本人とブータン人の違いは、ブータン人がいつも自信満々なことだ」として、それを分析した次の一節。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110722/221618/?P=2
(引用開始)
なぜブータンの人はいつも自信満々にしているのでしょうか。そして、失敗してもへこまないのでしょうか。
1つの理由は、ブータンの人の「割り切り力」であるように思います。
ブータンで仕事をして暮らしていると、そもそもブータンの人々は「人間の力では(または自分の力では)がんばってみてもどうにもできない」と思っている範囲が日本人よりずっと大きいのではないか、と感じます。
自然の力、という意味だけではなく、運や縁、運命なども含めて、「まぁ、なるようになるよ」というスタンスが強いように感じます。
「がんばってもどうにもできない」と思っている範囲が私たち日本人より広いため、何か失敗をしてしまった時、やるべきことができなかった時、ブータンの人は自分を責めるのではなく、「まぁ、仕方なかった」と割り切ることが多いように思います。
もう1つ、ブータンの人が、物怖じせず、どんな時も堂々としていられる背景と思われることがあります。それは、ブータンでは失敗や間違えは「許されるもの」であることです。
例えば、約束したことができなかった時。ブータンでは、あまり謝りません。「こうこう、こういう事情で、できなかったよ~」とだけ言い、聞いた方も「そうか、じゃあ仕方がないね」で済ませます。
「約束したんだからきちんとやってよ!」などと相手を責めたりすると、むしろ、人を許すことができない徳の低い人、と見なされる傾向すらある気がします。このため、約束が守られなくても、失敗があっても、ミスがあっても、相手を責めることはあまりない。お互いに、受け入れ合うのです。
このため、約束した方も気が楽なもので、「できたらやる」ぐらいにしか思っておらず、あまり気負ったりプレッシャーに感じたりしません。そして、できなくても、あまり慌てたり謝ったりしません。
(中略)
でもブータン人はプライドが高いから、上から指図されるのは嫌いなんだ。それに、失敗しても反省しないから、何度でも同じ間違いをしてしまう。
でも強く怒ると、どうなると思う?
ブータンの人は、逆ギレしちゃうんだ。自分がやることに関して、強く注意されたり怒られたりしたことなんて、ほとんどない人たちだから――。
(引用終わり)
…これ、アラブ人とよく似ています。私が相手をしている人たちは欧米留学経験のあるような人ばかりですが、一般のアラブ人と仕事をした人たちの苦労話を聞くと、このブータンの人と全く同じようです。
ブータン人は仏教徒(チベット仏教)、アラブ人はイスラム教徒ですが、ブータン人の「まぁ、なるようになるよ」はアラブ人の「インシャーラー(神のみぞ知る)」と非常によく似ています。
その「インシャーラー」にイライラさせられるようなのですが、全く文化が異なるはずのブータン人とアラブ人がこんなに似ているとすれば、むしろその方が「普通」であり、日本人の方が異常なのではないかと疑うべきかもしれません。少なくともどちらかが「正しい」ということはないでしょう。
さて、そういうブータンの人に言動を改めてもらいたい時は、どうすればいいのか。
(引用開始)
1つのコツは、それを「本人ではない誰かの話として伝える」ことだと思います。
例えば「私は昔、こういう失敗をしてしまったことがあって、ずいぶん人に迷惑をかけた。それ以来、気をつけるようにしているんだよね」と自分のことのように話す。あるいは、「最近、こういうことをする人がいるらしいけど、よくないよね。私たちは気をつけようね」と他人事のように話す。
そうすると、ブータンの人は「うんうん、それはよくないね」と聞き、その失敗をしないように気をつけてくれるようになります。
(引用終わり)
メモメモ。アラブ人と仕事を続ける上で、役立つかもしれません。
しかし、ちょっと白々しい気もしますが。私はこんな演技ができるか?
またこの連載の最終回、ブータンを組織モデルとして分析された文章もたいへん興味深いものです。
要約して引用してみます。
(部分引用開始)
規模も小さく、立地や資源などの条件にも恵まれていないブータンが、国民が「どうだ、俺の国いいだろ」と自慢できるような国であれるのはなぜか。どういった国づくりや運営をしているのか。どういった構造なのか。ブータンの政府で働き、ブータンの中で暮らしながら感じてきたこの国の特徴を、自分なりに考えてみました。
ブータンを組織モデルとしてとらえた時、特徴は大きく4つあるように思います。
1◆ GNH(国民総幸福度)という、国を運営する上での独自のビジョンを明確に持っている
ブータンの人は、自分たちの国が、何を目指しているかよく分かっています。そして、強い誇りを持っています。ブータンはほかの国とは違うんだ、これまでGDPの追求ばかりをしてきた先進国と違い自分たちは幸せを一番に考えるんだ――。こう思うことによって、ブータンの人は、誇りを持っていられます。そして、経済発展している国に対して劣等感や卑屈さを持たないでいられます。
ブータンの人たちを見ていると、「心からいいと思えるビジョンを持つこと」がどれほど人々に誇りや自信を与えるか、実感させられます。
2◆ グローバルに視野を開きながら自国の文化も深く理解し国の舵取りができる、驚くほど優秀なリーダーたちがいる
よく、「ブータンの人たちは昔ながらの暮らしをしていて、純朴で素朴で…」というイメージを聞きますが、これは、特にこの国を引っ張っているリーダー層には、全く当てはまりません。
首相、大臣、次官、高官、大手企業の経営者など、ブータンを引っ張るリーダーたちの多くは、実は小さい頃から海外で教育を受けてきて、英語も堪能な、極めてグローバルな人たちです。若手官僚の多くも海外の大学院の修士号を持っています。
英BBCや米CNNで世界中の情報を見ているのは当たり前ですし、私のGNHコミッションの同僚たちの間でも「スタンフォードの××先生が最近出した本、読んだ?」などの会話が日常的に交わされています。
世界における自分たちの立ち位置をわきまえ、小国として生きていくために実に戦略的な舵取りをしている国です。そして、それができる「リーダー」たちが確実にいる国であると思います。それも、今の国を引っ張っているリーダーたちだけではありません。各年代に、しっかり一定割合のリーダー層がいるのです。
3◆ 国民一人ひとりの「幸せ力」が強い
ある時、ブータンの友人がこう言っていました。
「あるところにいて文句ばかり言う人は、別の場所に行ってもきっと文句ばかり言う。今いる場所で幸せを感じられる人は、別の場所に行ってもきっと幸せを感じることができる。そういうもんさ」
ブータンの人たちが自信満々に「どうだ、いい国だろ」と胸を張ることができるのは、ブータンという国のよさももちろんあると思いますが、それだけでなく、ブータンの人たち自身の「これでいいのだ」と思える肯定力が強いことも一因ではないかと思います。
4◆ 国全体が社会というよりコミュニティ
人生、何かうまくいかないことがあれば、家族や友人の誰かが助けてくれる。お金が無くなれば友達の家に転がり込んだっていいし、故郷の村に帰ってもいい。その代わり、家族や友人が困っていたら自分も助ける。そのように、自分の属するコミュニティというものが、人生のセーフティネットになっているように見えます。ブータンでは、最終的にはコミュニティに守られてどうにか生きていけるのです。
今回挙げた組織モデルとしてのブータンの特徴、というのは、国ではなくても、様々な規模の組織に適用できるようなものだと思うのです。地方行政でも、企業でも、クラブ活動でも、「ブータン的な社会」や「ブータン的な組織」というものはあり得るのではないでしょうか。
みんなが心からいいなぁと思えるビジョンを掲げることによってメンバーに自信と誇りを持たせ、組織を心から愛しながら視野を広く持ち巧妙に舵取りするリーダーがいる。そして、メンバーはポジティブに自分たちの「いいところ」に目を向けて語る。全体としては、ドライなルールだけでなく最後にお互いを助け合うセーフティネットとしての絆が生きている。――そういう社会、そういう組織は、すごく「ブータン的」だろうなぁと思います。
(引用終わり)
…さすが、マッキンゼーの人らしい鋭い分析です。
ただ、彼女のブログで、最もアクセスの多い記事はこれだそうです。↓(笑)
「実際のところ、夜這いってどんな?」経験者たちに聞いてみました
http://d.hatena.ne.jp/Bhutan_Tamako/20101117
ブータンと御手洗さんにますます興味を持ったので、こちらの本を買いました。
ブータン、これでいいのだ/御手洗 瑞子

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Amazon.co.jp
面白そう。
さてさて、あと1時間ほどでこちら(中東某国のホテル)を出発して、一旦日本に帰り、家族と一緒にハワイに旅行に行きます。子どもらにとっては、初めての海外旅行です。
できたら、ブログでも報告したいと思っています。
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