この新基準値に対しては、さまざまな意見があったにも関わらず、いよいよ実行されることになります。
まず、どう変わるのか、毎日新聞の記事より引用します。(太字は筆者)
http://mainichi.jp/life/food/news/20120315ddm013100022000c.html
(引用開始)
Q 新しい基準値の特徴は何か?
◇数値を厳格化、分類「5」→「4」
A 食品の区分が現行の5分類から、「一般食品」「牛乳」「乳児用食品」「飲料水」の4分類になり、数値は暫定規制値に比べてかなり厳しくなります=表<上>参照。例えば一般食品は、欧州連合(EU)の規制値(1250ベクレル)や、食品の国際規格を策定する「コーデックス委員会」のガイドライン(1000ベクレル)の10分の1以下です。食品衛生法に基づき、基準値を超えた食品は出荷停止になります。

Q 数値の根拠は変わったか?
A 根拠となるセシウムの被ばく線量の許容上限値は、暫定規制値では年間5ミリシーベルトでしたが、新基準値は年1ミリシーベルトです。厚生労働省は、コーデックス委のガイドラインを参考にしたと説明しています。食品安全委員会の「生涯でおおよそ100ミリシーベルト以上で健康影響がある」との答申は算定に使われませんでした。つまり、根拠は日本、国際機関とも同じです。
Q では、なぜ基準値が異なるのか?
◇汚染割合、高く設定
A 流通食品の汚染割合の設定の違いが主な要因です。コーデックス委は流通食品の1割がセシウムで汚染されていると想定しましたが、日本は汚染割合を5割としました。「牛乳」「乳児用食品」は子ども、乳児の感受性が高いことに加え、汚染割合を100%と設定し、より厳しい基準となったのです。地域差は考慮されず、基準値は全国一律です。文部科学省の放射線審議会は「汚染割合の設定が現実的でない」などと修正を求めましたが、厚労省は「国民の安心確保のため、より安全側に配慮したい」と主張しました。
(引用終わり)
さて、消費者の立場だけからすれば、食品中の放射性物質が少なければ少ないほどいいということには誰も異論はないでしょう。
しかし、現行の暫定規制値の下でも、実際の消費者の放射性物質摂取量は、健康被害を起こすようなレベルを大きく下回っていることが、例えば朝日新聞と京都大学の調査でわかっています(2012.1.19)
http://www.asahi.com/national/update/0118/TKY201201180799.html
(引用開始)
家庭で1日の食事に含まれる放射性セシウムの量について、福島、関東、西日本の53家族を対象に、朝日新聞社と京都大学・環境衛生研究室が共同で調査した。福島県では3食で4.01ベクレル、関東地方で0.35ベクレル、西日本でほとんど検出されないなど、東京電力福島第一原発からの距離で差があった。福島の水準の食事を1年間食べた場合、人体の内部被曝(ひばく)線量は、4月から適用される国の新基準で超えないよう定められた年間被曝線量の40分の1にとどまっていた。
(中略)
この食事を毎日1年間、食べた場合の被曝線量は0.023ミリシーベルトで、国が4月から適用する食品の新基準で、超えないよう定めた1ミリシーベルトを大きく下回っていた。福島でもっとも多かったのは、1日あたり17.30ベクレル。この水準でも年間の推定被曝線量は0.1ミリシーベルトで、新基準の10分の1になる。原発事故前から食品には、放射性のカリウム40が含まれており、その自然放射線による年間被曝線量は0.2ミリシーベルト(日本人平均)ある。セシウムによる被曝線量はこれを下回った。
調査した京都大医学研究科の小泉昭夫教授は「福島のセシウム量でも十分低く、健康影響を心配するほどのレベルではなかった」と話している。
(引用終わり)
こういう現状にも関わらず、規制値を一気に4~5倍も厳しくして、今までは出荷できていた被災地の生産物を出荷停止に追い込むことに、何の意味があるのでしょうか?
松永和紀氏は、自身が主宰されるFOOCOM.NETのコラムで、『消費者の安心のための新基準値でよいのか?』(2012.1.12)という記事を書かれています。
http://www.foocom.net/column/editor/5500/
(引用開始)
チェルノブイリ原発事故後、さまざまな規制が講じられ、強制移住や生活の制限も行われた。その結果、仕事の変更や生活の激変などに見舞われた人たちの多くが精神的に大きな打撃を受け、タバコや酒に逃げ込んだ。放射線リスクは軽減されても、人としての暮らしや尊厳を奪われ、別の健康リスクを被ってしまったのだ。
また、国による補償が逆に個人の依存心を招き、地域の復興をさまたげる面もあったことが、報告書では述べられている。
放射線リスクだけを下げることに尽力してもダメで、人の心や地域経済にも十分に配慮しなければならないことを、チェルノブイリ原発事故は明確に示している。だからこそ、国際放射線防護委員会(ICRP)は事故直後などの「緊急時被ばく状況」と平常時の「計画被ばく状況」のほか、復旧期の「現存被ばく状況」という区分けをしている。現存被ばく状況についてICRPは放射線リスクだけでなく、経済的、社会的、文化的な諸事情についても検討し、バランスのよい判断をするように求めている。
(引用終わり)
これは、きわめて政治的な問題です。
総合的に考えて、消費者にどこまで「ガマン」してもらうべきなのか、政府が国民に正しく伝えて説得すべきなのですが、文部科学省と厚生労働省とですら意見が違ったままです。
4月から基準値が一気に厳しくされることにより、福島県や群馬県などで今まで出荷できていたシイタケ、葉タバコ、魚、牛肉などが出荷できなくなるようで、地域の産業に大打撃を起こすでしょう。被災地の農家などの方々の落胆はいかほどかと思います。また、その補償金は税金から拠出され、さらなる増税を余儀なくされることは間違いありません。
繰返しますが、現状の暫定基準値で、福島県の人の食事ですら健康に何の影響もないことが確認されているにもかかわらず、新基準値が導入されるのです。
もうひとつ大事なことを、念のため繰返します。100ミリシーベルト以下の被曝による健康影響は「分かっていない」から不安だと思い込んでいる人が多いかもしれませんが、それは間違いです。あまりに微小すぎて、これまでどんなに努力をしても誰も見つけることができていない、というのが事実です。
政府が「正しく怖がる」ことの大切さを認識して政策を決めていないことにより、被災地の産業を大きく阻害して復興の妨げとなってしまうこと、そして原発事故に被災された方々の生活・人生にさらに大きな打撃を与えてしまうことを、たいへん遺憾に思います。
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