「福島の女性に嫁に来てもらっては困る」/映画『チェルノブイリ・ハート』のウソ | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

安井至先生のサイト「市民のための環境学ガイド」の最新記事は、「三井物産環境基金交流会報告」で、ここで行われた「放射線関係のワークショップ」について報告されています。

「シンポとワークショップで、新しいいくつかの論点を確認」されたとのことで論点を多数挙げられていますが、その中の第一番目が、

論点1:「福島の女性に嫁に来てもらっては困る

です。

(引用開始)
 福島の問題は、(1)農産物などの風評被害、(2)放射線のリスクを過大に評価しすぎて、精神的に不安定になってしまう問題、この2点が重大かと思ってきたが、今回、様々な情報交換から、もっと根本的な問題があることを再認識した。それは、これまでも「穢(けがれ)」の問題というものがあるという報告は聞いていたが、その実態が何か測りかねていた。それがなんとなく分かったような気がした。その具体的表現がこれかもしれないのだ。
(引用終わり)

以前に少し、このような差別が起きるかもしれないと書いたことがありますが、実際にそれが起きているのかと思って調べてみたら、大きな話題が見つかりました。

群馬大学の早川由紀夫教授

Googleでも色々引っかかりますが、Wikipediaだけでもどんな問題があるのか理解するのに十分なことが書かれています。

(引用開始)
ツイッターでは「福島県の住民は家を捨てて移住すべし」「福島県で育って放射能を浴びた娘は我が家の嫁には迎えないが、これは合理的な理由があるから差別ではない」「福島県の農家が牧場で牧畜やセシウムで汚染された水田で稲作を行うのはサリンを作ったオウム信者と同じだ」「私は、ちゅうちょすることなく相手を殺します」といった過激な発言を行っている。これについて早川は「ツイッターの読者を増やすために意識的に刺激的な発言をした」「地図を広め、理解を浸透させたかった」と説明している。

群馬大学は一連の発言について6月頃から何度も注意を行ってきたが改善が見られないとして、2011年12月7日付で早川に対して訓告処分を行った。群馬大学側は「(早川の)研究成果ではないため言論統制には当たらない」とコメントしている。

早川は処分を受けた後に「あんなひどいことをした福島農家と一緒にしてしまって、オウム信者に申し訳なかった」と発言している。
(引用終わり)

これはヒドイ。これが国立大学の教授の発言とは思えません。
原子力村の学者たちも困ったものですが、原発反対派の学者にもトンデモな人物がかなりいます。

これに対して、「差別だ」「許せない」という声はもちろん多いのですが、一方でまだまだ「信者」も多いようで、「早川由紀夫先生講演会」なるものが、今も各地で開かれているようです。


ところで、「福島県で育って放射能を浴びた娘は我が家の嫁には迎えないが、これは合理的な理由があるから差別ではない」という発言を頭から否定することは(そういう声も多いですが)、奇麗事ではなく、なかなか難しいことです。

本当に何らかの遺伝的な影響があるのであれば、私とて、正面切って発言しないにしても、心の中では同じように考えるかもしれません。

これに対するしかるべき対応は、科学的に正しい事実を確認するしかないと考えます。

安井先生は、それには広島・長崎の遺伝的影響調査の結果を丁寧に聞いてもらうしかないとして、その結果を示されています。

(引用開始)
遺伝影響調査(いわゆる被爆二世調査)とその結果

◆調査の対象(1950年から実施)
(1)両親とも2000m以内で直接被爆をしている場合(平均被曝量は117rad=1.17Gy≒1170mSv)の子ども。総数18、946名。
(2)少なくとも親一人が2500m以遠で遠隔被爆した場合の子ども。総数16、516名。
(3)参照群。広島・長崎以外の子ども。総数17、263名。

◆調査結果
 次世代への影響、いわゆる遺伝的影響は見つからなかった。
 生殖細胞への影響は、被曝後6ヶ月から1年程度で消えるものと思われる。
(引用終わり)

これが私の知る限り、最も正しいと考えられる事実です。


さて、「チェルノブイリ・ハート」という映画があります。

ウクライナ・ベラルーシにおけるチェルノブイリ原子力発電所事故による子どもたちの健康への影響を取材したドキュメンタリー映画です。

2004年にアカデミー短編ドキュメンタリー映画賞を受賞したとのことで、素直に信用してしまう人も多いのでしょう。

しかし、これはセンセーショナルなことだけを狙ったウソ・ごまかしばかりのトンデモな映画であり、社会に対する害悪です。

「ベラルーシでは現在でも、新生児の85%が何らかの障害を持っている」などと聞けば、これだけでもう胡散臭い、きっとウソだろうと身構えるべきだと思うですが。「危ない」という情報を信じたくなるのが人情なのでしょうか。ウソでも、もう少しおとなしい数字にしていれば、私も悩んだかもしれません(笑)

調べたら「愛・蔵太のもう少し調べて書きたい日記」というサイトにそのウソが詳しく暴かれているのを見つけました。
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20110823/cherno

きわめて執拗に関連情報を集めて書かれた記事です。すごいです。
(私の書き方に近いものを感じますが、その何倍も気合が入っています。)
一部引用させていただきます。

(引用開始)
・「ベラルーシでは現在でも、新生児の85%が何らかの障害を持っている」そんな情報、ねぇから。
 一人の医師の、データとか統計とか示さない伝聞情報ですか。
・「チェルノブイリ・ハート」って、普通の先天性心疾患じゃないの? それなら100人に1人がそうで、1000人に6人は「心室中隔欠損症」なんだけど。

・チェルノブイリ原発事故によるベラルーシでの遺伝的影響
「新生児1000人当り先天性障害頻度」が、「ゴメリ州」で「事故後の増加: 83 %」。で、「1000人あたり4.06人」が「7.45人」になってるんだけど…日本だと、先天性心疾患だけでも、それより多い数字ですよ!

・チェルノブイリ原発事故によるその後の事故影響 (今中哲二)
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/GN/GN9705.html

 子供たちの健康悪化の原因としてまず考えられるのは、放射能汚染にともなう被曝影響であるが、今の段階で被曝影響と断定するには「見せかけ要因」に関する情報が不足している。つまり、子供たちの健康状態には、食料事情を含めた生活条件や経済状態の変化とか、また、IAEAなどが指摘するように、精神的ストレスといった要因も関係するであろう。

・チェルノブイリ事故健康影響-WHO・IPHECAパイロットプロジェクトについて-(岩崎民子)
http://www.journalarchive.jst.go.jp/jnlpdf.php?cdjournal=jhps1966&cdvol=31&noissue=2&startpage=155&lang=ja&from=jnlabstract

 被ばく群の子供では精神遅滞の発生率が対照群より高く, 行動および感情面での問題が増加傾向を示した。被ばく群の親では神経および心理的障害の発生率が対照群より高かった。しかし, これらの調査結果から精神遅滞児の増加とチェルノブイリ事故による放射線との関係について, 何か明確な結論を導き出すことは不可能である。得られた結果は解釈が難しく, 更に今後の調査確認が必要である。例えば, 親のストレスや不安が結果に影響を及ぼす可能性がある。

以上、「チェルノブイリ・ハート」はトンデモ映画であり、広島・長崎でも、そしてチェルノブイリでも、放射線による遺伝的影響は見つかっていません。


福島の女性をお嫁にもらっても、何の問題もありません。


根拠なく放射能の危険を煽るアジテーターに騙されないように、そして善意のつもりでそのデマを拡散したりして、結果的にいわれなき差別に加担することのないように、国民のひとりひとりにお願いしたいものです。

しかし、それもこれも、国民にとって国が信頼できないことが根本的な問題でしょう。


最後は、安井先生の結びから引用します。

(引用開始)
国が提供できることは、「信頼」でしかない。山岸俊男氏流に言えば、「能力のある政府」、「正しい意図をもった政府」を構築する以外に、方法はない。

政府への信頼を回復するために、本気になって何をやるべきなのか。もう一度、いや、常に真剣に考えて欲しい。
(引用終わり)