アントキノイノチ (幻冬舎文庫)/さだ まさし

¥630
Amazon.co.jp
Amazonの「内容紹介」より
(引用開始)
杏平はある同級生の「悪意」をきっかけに二度、その男を殺しかけ、高校を中退して以来、他人とうまく関われなくなっていた。遺品整理業社の見習いとなった彼の心は、凄惨な現場でも誠実に汗を流す会社の先輩達や同い年の明るいゆきちゃんと過ごすことで、ほぐれてゆく。けれど、ある日ゆきちゃんの壮絶な過去を知り‥‥。「命」の意味を問う感動長篇。
(引用終わり)
昨年、岡田将生と榮倉奈々のダブル主演で映画化されました(11月公開)。私は映画は見ていません。興行的にはどんなものだったのでしょうか。
2011年の興行収入ランキングでは、30位までに入っていませんね。11月公開というのも影響しているかもしれませんが、あまりふるわなかったようです。
http://www.moon-light.ne.jp/news/2012/01/box-office2011.html
このタイトルはもちろん、「アントニオ猪木」のもじり。このタイトルだけを見たら、買う気がしない・映画を見る気もしないのではないでしょうか?その意味でちょっと失敗かも?
私は映画の原作になったことと、さだまさしの本としては以前に「解夏(げげ)」を読んでこれがとてもよかったこともあって、迷わずに買いました。
結果、やはりこの本もよかったです。
とは言え、この小説の大きなポイントはゆきちゃんの「壮絶な過去」でしょうが、私はこれにはちょっと惹かれませんでした。(これが事実なら大変なことですが)小説としてはちょっと陳腐。それに色々偶然が多すぎます。
ゆきちゃんは小説では会社の人たちの行きつけの居酒屋でバイトしている女の子ですが、映画では同じ会社で先に働いているようですね。ますます偶然が過ぎて、興醒めかもしれません。
タイトルの「アントキノイノチ」は、クライマックスで出てくるシーンに関係しますが、お楽しみということにしておきます。
むしろ前半部分がいいです。
心の病をかかえてしまった息子に、変わりなく優しく接する父親。
そして「遺品整理業」の仕事に誇りを持ち、亡くなった方に敬意を持って、遺体の残滓やウジ・ハエ・ゴキブリが大量発生する壮絶な現場でも臆することなくてきぱきと働く会社の先輩たち。
この人たちのおかげで、杏平は少しずつ立ち直っていきます。
ところどころでジーン、ウルウル。
遺品整理業という仕事は実際にあり、モデルとなった会社キーパーズ(小説ではCO-OPERS)がNHKの番組で取り上げられたのをさだまさしが見て、小説に書きたいと思ったそうです。
キーパーズのサイトがありました。
http://www.keepers.co.jp/book/antokino/
小説に出てくる会社の先輩「佐相さん」はそのままの名前で実在し、写真が載っています。びっくり。
さて、最近の若い人は、さだまさしのことをどう捉えているのでしょうか?
私にとっては、高校時代にフォークギターを買ってもらって、ひたすら練習をしていた当時の二大スターのひとりです。(もう一人は松山千春。)
その後、映画「長江」の失敗で借金をかかえ、ネクラのイメージでヒット曲にも恵まれず(確かにバブル時代にさだまさしは合わない…)、一時期はあまり見かけなくなりましたが、最近はまたその達者な話術のおかげもあってか、テレビでもしばしば見るようになりましたね。
最初、さだまさしの小説と聞いてちょっと不思議な感じがしましたが、考えてみたら彼の作詞作曲してきた曲はストーリー性のあるものが多く、もともとその素養があったのだと理解できます。
ヒット曲でも、「精霊流し」「朝刊」「雨やどり」「案山子」「関白宣言」…、どれもこれも、小説を凝縮したような曲です。もし歌がうまくなかったら、初めから小説家になっていたかも。
懐かく思い出したので、全盛期1979年に発売された4枚目のアルバム「夢供養」(日本レコード大賞ベスト・アルバム賞受賞)から、YouTubeで見つけた歌を貼り付けます。あまり多くても何なので2曲だけ。どちらも高校時代にギター弾き語りを練習した曲です。
(私が東大寺学園高校に通っていた頃、まさにその奈良・春日野を歌った『まほろば』という曲もあるのですが、ちょっと重い曲なので除外。)
『パンプキン・パイとシナモン・ティー』
まさに短編小説のような楽しい曲。喫茶店のマスターと客の美しい女性との恋を、常連の高校生たちが学校をサボって成就させようとする話です。
岡村孝子が、当初女性デュオで『待つわ』を大ヒットさせたときのユニットの名前は「あみん」で、それはこの曲の喫茶店の名前から取られたことは有名な話ですが、私が高校生のときに結成して文化祭で演奏した際のフォークグループ3人組の名前も同じく「あみん」(岡村孝子のデビュー以前)であったことは、あまり知られていません(笑)。
『歳時記(ダイアリー)』
これは、全く有名でない曲と思います。Wikipediaの夢供養の記事でも、「卒業とともに同居生活を終える男女を描いた作品。」とだけしか書かれていなくて、他の曲より扱いが軽いですね。
でも私にとっては、なぜか心に残る曲で、今でもたまに突然口ずさんでしまいます。(自分が学生時代に同棲していた訳ではありませんので念のため:笑)
こちらは、ちょっと切ない短編小説のような曲です。
よかったら聴いてみて下さい。いいと思いませんか?