福島第一原発 除染に関する行政府の発表が矛盾 | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

福島第一原発の事故で放射性物質に汚染された地域の除染に関して、最近2件の発表がありました。

ひとつは環境省の省令。
毎時0.23マイクロシーベルト(年間1ミリシーベルトに相当)以上の汚染地域の場合、その除染を国が財政支援すると。

日経新聞の記事から
(引用開始)
環境省、除染支援の省令を公布
2011/12/14 12:31

 環境省は14日、東京電力福島第1原子力発電所の事故で汚染された地域のうち、放射線量が年間1ミリシーベルト以上の自治体を国が除染を支援する「汚染状況重点調査地域」に指定することなどを盛り込んだ省令を公布した。来年1月1日付で施行する放射性物質汚染対処特別措置法に基づく。同省は対象になる自治体を近く決定し、公表する。

 指定対象は航空機の測定などで空間線量が毎時0.23マイクロ(マイクロは100万分の1)シーベルト(年間1ミリシーベルトに相当)以上となっている自治体。約100の市町村が対象になる見通しだ。これらの市町村は線量を詳しく調べて除染計画をまとめ、国の財政支援を受けて自ら除染する。
(引用終わり)


もう一件は、政府の作業部会の報告。
除染の中間目標を、2年後に年10ミリシーベルトにすると。

日本経済新聞の記事
(引用開始)
除染に中間目標値、2年後に年10ミリシーベルトに 政府部会が報告書
2011/12/16 0:23

 長期間の低線量被曝(ひばく)の健康影響を検討する政府の作業部会は15日、福島第1原子力発電所の事故で汚染された地域の除染にあたり、2年後までの中間目標値を年間10ミリシーベルトとし、達成後は同5ミリシーベルトへと段階的に下げる案を例示した報告書をまとめた。地域に優先順位をつけて除染を効率化する狙い。今後の除染計画策定や避難区域の見直しに役立てる。

 現在の避難区域は年間20ミリシーベルト以上を基準にしている。報告書では、年間20ミリシーベルトの被曝でがんなどの健康被害が起きるリスクは喫煙など他の要因と比べても十分に低く、「今後一層の低減を目指すためのスタートラインとして適切」と評価した。

 政府は長期的には、すべての地域で追加被曝を一般人の被曝限度である年間1ミリシーベルト以下に抑える方針だが、すぐに達成できる状況にはない。そこで中間目標値を除染地域の優先順位づけに生かすよう求めた。中間目標の考え方は、国際放射線防護委員会(ICRP)の提言を参考にした。

 子どもの生活環境の除染を優先すべきだと明記。住民が被曝状況を知るための測定器などの整備も提言した。報告書は中間目標は「安全と危険の境界値ではなく、被曝の限度を示す数値でもない」とも強調した。

 このほか20年後を目標に、福島県のがん死亡率が全国で一番低くなるよう目指すことも盛り込んだ。
(引用終わり)

環境省の方針と政府の作業部会の報告とが矛盾しています。

私は、作業部会の報告の方を支持します。


まず、以下、おさらい。

年間100ミリシーベルトの被曝で発がんのリスクが100人につき0.5人増えるだろうということは専門家の間で大きな意見の相違はありません。これ以下の被曝量では、発がん率が低すぎて、統計的に意味のあるデータが得られていません。日本では、被曝がない場合でも100人のうちおよそ50人がガンになることが、低い被曝量と発がん性との関係の意味のあるデータを得ることを難しくしています。

人間の免疫システムを考えると、ある値より小さい被曝量では、発がん性に全く影響がなくなる「しきい値」があるということも十分に考えられるのですが、ICRPでは「しきい値がなく被曝量と発がん性とは比例関係にある」という「しきい値なし直線(LNT)モデル」を、より安全側の仮説として採用することにしています。

(ECRRは低被曝量の方が高被曝量より発がん性が高くなるという説を唱えているようですが、もちろん専門家の間で科学的に否定されていますし、一般人の常識から考えてもとても信じられません。)

この安全側のLNTモデルに従えば、年間10ミリシーベルトの被曝を受けた場合、自然の場合と比べて1000人に0.5人だけ発がんする人が増えることになります。すなわち、ガンになる人が、自然ではおよそ500人のところ最悪のケースで500.5人になるかもしれない、ということです。

したがって、もちろん東電の事故による理不尽な被曝など少ないに越したことがないということは心情的には理解できるのですが、それでも年間10ミリシーベルト程度であれば「緊急時に」生活する分には科学的に問題ないと考えて欲しい、と政府は平身低頭して住民に理解を求めることが必要なはずです。そして目標を段階的に下げていくべき、と。


しかし、環境省の省令の方の記事では、年間1ミリシーベルトを超える地域では自治体が除染をしてその費用を国が負担する、と。どれだけ広い地域の除染をするつもりなのか、どれだけの予算を使うつもりなのか、心配になります。

さらに実際には、測定データとして得られる「毎時0.23マイクロシーベルト」が基準となります。すると、1000/0.23=4348で、年間4348時間そこに滞在するという仮定で計算していることになります。1年365日として1日あたり11.9時間です。

たとえ毎時0.23マイクロシーベルトと測定されたとしても、1年間毎日毎日12時間滞在するような場所でない限り、年間1ミリシーベルト被曝することはありません。公園はもちろん学校の校庭ですらそんなことにはなりません。自宅くらいでしょう。

このように人の滞在時間を考慮することなく、毎時0.23マイクロシーベルトという測定値の基準だけが一律で一人歩きしてしまいそうで、憂慮します。

今回環境省が発表したガイドラインでは、森林の除染の方法まで解説されています。
http://www.env.go.jp/jishin/rmp/attach/josen-gl02_ver1.pdf

(この基準数値の絶対値は別にして)学校や公園は、人がめったに入らない森林などよりも当然優先するべきであり、そのためには滞在時間を考慮して、異なる基準を採用することで優先度をはっきりさせるべきと考えます。


これから、毎時0.23マイクロシーベルトの測定値が出た森林や荒地を、地元土建業者が枯葉を集めたり土を掘り返したりする作業をさんざんやって、その費用を国につけかえることが起きないか心配します。自治体が自分で費用を支払うのなら絶対に行わないところまで、国が支払ってくれるのなら地元業者の利益のため=自治体の税収アップのために、意味がないと知っていながら実行してしまうことを懸念します。

ただでさえ世界一の800兆円もの累積赤字を抱え、消費税増税を考えなければならないほど緊迫している日本の財政なのに、こんな馬鹿げた作業に莫大なお金を使うことは決してあってはならないことです。


政府部会の報告は、たいへん重要なことを書いています。当面の目標を年間10ミリシーベルトに設定した上で、「20年後を目標に、福島県のがん死亡率が全国で一番低くなるよう目指す」と。それだけ科学的に自信があるということです。

広島・長崎の被爆者は、医療費負担が軽減され、また手厚い健康診断が継続的に行われていることで(人体実験との批判もありますが)一般人よりも寿命が長いそうですので、福島県の人たちの場合にも十分に実現可能だし、そうあってほしいと考えます。