「チェルノブィリ事故による健康影響の概要:その全体像」という資料が、国立保健医療科学院生活環境研究部というところのサイトにありました。
福島第一原発事故のずっと前、2006年4月の記事です。
「WHOの Fact sheet N°303の解説です。
正確でゆがみのない情報は、事故の影響を最も受けた人々の癒しを助けることでしょう。」
と始まっています。
我々日本人、特に福島の人々が現在直面している放射能の危険性は、真剣に考えなければならない問題です。そしてそれは、しっかりとした科学的根拠に基づくべきです。
御用学者による安全デマに惑わされることはもちろん問題ですが、その反対に危険デマに踊らされることもないように気をつけなくてはなりません。
良心の人が陥りがちなのが、科学的な根拠もなく危険を煽るデマを信じて、その間違った情報を広げてしまうことです。これが福島の人たちに対して必要以上の精神的不安・ストレスを助長し、かえってうつ病などの精神的や医学的に原因が不明の身体症状につながることが指摘されています。
また、「奇形児が生まれるかもしれないから福島の女性とは結婚しない」などの、誤った差別にもつながります。
科学的に中立な正しい情報を得ることが何よりも大切です。
本来なら国やマスコミが正しい情報を広めるべきなのですが、実際、国やマスコミが信じられないという状況になってしまっていることは、残念なことです。
その中で、今回紹介している記事も国の機関からの発信ではありますが、元はWHOの報告であり、最も信用するに足るとすべきものでしょう。(なお、『このサイトは国立保健医療科学院生活環境研究部が管理しており、厚生労働省としての見解を示すものではありません。』と宣言されています。)
この「チェルノブィリ事故による健康影響の概要:その全体像」をGoogleで検索すると、すでに色々な方が3月の時点から引用されているようです。(97件しかヒットしなかったので、数的には少ないですね。)私は、昨日紹介した福島県田村市の活動(「たむらステークホルダー諮問委員会」http://benton.jp/tamuramirai/stakeholder.html)からたどりつきました。
「今さら」という感じもなくはないですが、改めてこの記事から重要と思うところを抜粋して紹介します。ぜひ元記事をご確認ください。
http://trustrad.sixcore.jp/chernobyl.html
(以下、抜粋)
チェルノブィリ原発事故による線量
次の表は、チェルノブィリ事故で最も高い線量に曝露した集団における事故から20年間の積算実効線量の平均です。比較のために、通常レベルとなる世界平均の自然放射線曝露量と一般的な放射線診療での線量(←tomam:略)も示しました。
集団 (曝露期間) 人数 20年間の平均積算線量 (mSv)
清算人(高線量曝露)
(1986-1987) 240,000 >100
疎開した人たち
(1986) 116,000 >33
厳戒区域(>555 kBq/m2)
(1986-2005) 270,000 >50
低汚染地域(37 kBq/m2)居住者
(1986-2005) 5,000,000 >10-20
自然放射線
(通常の範囲1-10, 最大 >20) 2.4 mSv/年 >48
汚染地域に住む居住者であっても多くの場合実効線量は低いですが、汚染した牛乳の摂取により多くの人の甲状腺の線量が高くなりました。甲状腺の線量は数十mGyから数十Gyに及びました。
このように放射性ヨウ素を多く摂取した人を除けば、事故後の最初の2年間に損傷した原子炉の周りで働いていた24万人の”清算人”と11.6万人の疎開した人たちの中の何人かが100mSvを超える曝露をし、高汚染地域に住み続けている27万人が、通常の自然放射線レベルよりも高い曝露を受けました。低汚染地区(37kBq/m2)の居住者は現在も、その土地の元々の自然放射線レベル超えるわずかな曝露を受けていますが、その増分は一般的に観察される自然放射線量の変動内に収まっています。
甲状腺がん
ベラルーシ、ロシア連邦、およびウクライナの高汚染地域の居住者のうち、事故時に小児期や青年期であった人では、甲状腺がんの発症率が大きく増加しました。これは事故直後の初期にチェルノブィリ原子炉から放出された高いレベルの放射性ヨウ素のためです。放射性ヨウ素は牧草に蓄積し、それを牛が食べることで牛乳中に濃縮され、それを子供が飲んだのです。この地域では通常の食生活でヨウ素欠乏となるため、放射性ヨウ素の甲状腺への蓄積が促進されたのです。放射性ヨウ素の半減期は短いので、事故後の数ヶ月の間、汚染した牛乳を子供に与えるのを止めていたならば、放射線誘発甲状腺がんの過剰増加の大部分は生じなかったでしょう。
白血病と甲状腺以外の固形がん
電離放射線はある種の白血病(血球細胞の悪性疾患)の原因になることが知られています。放射線による白血病のリスク増加は、日本の原爆被爆者を対象とした調査で、曝露後、およそ2~5年経過して初めて検出されました。最近の調査はチェルノブィリ事故において最も高い線量の”清算人”の中で白血病の発生が倍増していることを示唆しています。汚染地区の居住者については、子供と成人のいずれでも、発がんの増加は明確には確認されていません。
一方、他の臓器の放射線誘発がんの有無についても研究が進められてきましたが、WHOの専門部会によるレビューでは甲状腺がんを除き、チェルノブィリ事故に伴う放射線曝露による発がんリスクの増加を明確に示す事実は確認できませんでした。
チェルノブィリ事故により少ない線量から中等度の線量を曝露した集団でも、わずかに発がんリスクが増加することが予想されます。しかし、予想される発症リスクの増加を検出するのは容易ではありません。
白内障
“チェルノブィリ白内障研究”は、放射線白内障が250mSv程度の線量でも発症しうることを示唆しています。
心血管疾患
チェルノブィリ事故時の緊急作業者を対象にした大規模なロシアの研究は、高い線量に曝露すると心血管疾患による死亡リスクが高くなることを示唆しています。
メンタル・ヘルスと心理的影響
チェルノブィリ事故は、大規模な移住や経済的な安定の喪失、現在だけでなく将来の世代にも関係するかもしれない健康への長期の不安を引き起こしました。心配と混乱は広く見られる感情反応です。身体面と感情面でも健康が損なわれました。チェルノブィリ事故のすぐ後にソ連が崩壊したこと、そして、そのために被災者への健康管理サービスが不安定になったことも、被災者に悪影響を与えました。被災者が強い心理的ストレスや不安にさいなまれている症例や、医学的には原因が不明の身体症状を呈した症例が報告され続けています。
生殖および遺伝的な影響と子供の健康
多くの人にとっては、チェルノブィリ事故により曝露した放射線の量は小さく、放射線曝露が原因の生殖能力低下、死産数、異常妊娠、異常分娩は示されていませんし、これからも生じるとは考えられません。ベラルーシでの先天奇形の報告数が緩やかであっても持続的に増加しているのは報告システムの改良によると考えられ放射線曝露の影響を示しているのではありません。
(抜粋終わり)