(西山審議官が女性問題で更迭された件は置いておいて、)今日は大学のランキングの話を。
世界の色んな機関が、世界の大学をランク付けしています。
中でも、Times Higher Education(THE)社や上海交通大学による大学ランキングが有名なようです。
ランキングの評価基準はそれぞれ独自の方法を採用しており、機関によってランキングは結構異なってきます。
例えば、ロンドンが拠点のQS-World University Rankingではケンブリッジ大(英国)が1位になっているし、ロシアの機関のランキング(Global University Ranking)では、モスクワ大学がハーバード大(米国)やケンブリッジ大よりも上位にランクされているなど、その評価基準については、しばしば議論・批判もあるようです。
参考: http://en.wikipedia.org/wiki/Ranking_university
そんな中、2007年から台湾のthe Higher Education Evaluation and Accreditation Council of Taiwan (HEEACT、財團法人高等教育中心基金會).が、Performance Ranking of Scientific Papers for World Universitiesという世界の大学ランキングを行っています。
http://en.wikipedia.org/wiki/HEEACT_%E2%80%93_Performance_Ranking_of_Scientific_Papers_for_World_Universities
分野(Field)別のランキングは、農業および環境科学、臨床・薬学、工学およびコンピュータ技術、生命科学、自然科学、社会科学の6つで、2010年から、科学・工学分野については、さらに学科(subject)別のランキングも提供している。
ランキングの基準としては、研究のproductivity、impact、excellence(生産性、影響力、卓越性)を、論文数、論文の引用数、影響力のある雑誌の論文数などについて、客観的な指標で採点しています。過去11年間のデータと最近2年のデータの両方を加味しているのも特徴です。
その厳格な方法とゆるがない穏当な結果から、歴史の浅いランキングにも関わらず、多くの研究者から高い評価を受けているそうです。
台湾やその他各国の優秀な学生たちは、このようなランキングを参考にして、自分が留学する大学を決定するのだと思います。
さて気になる結果ですが・・
まず、総合ランキングは、以下のようになっています。
10位までは・・・(日本語表記すると間違うかもしれないので、英語のままにします。)
1位 Harvard University USA
2位 Stanford University USA
3位 Johns Hopkins University USA
4位 University of Washington- Seattle USA
5位 University of California- Los Angeles USA
6位 University of California- Berkeley USA
7位 Massachusetts Institute of Technology USA
8位 University of Michigan- Ann Arbor USA
9位 University of Toronto Canada
10位 University of Oxford United Kingdom
米国の大学が8つを占めています。
日本の大学で総合で50位までに入っているのは以下の通りです。
14位 東京大学
28位 京都大学
38位 大阪大学
50位までの大学を国別に見ると、米国が35を占め、他は英国4、カナダ3、日本3、スウェーデン1、オーストラリア1、ドイツ1、フィンランド1、オランダ1という結果です。
米国の大学が強いですね。こんなものでしょうか。
次に分野別のトップ20ですが、ここからは日本の大学の結果だけを記します。
農業・環境科学 なし
臨床・薬学 なし
工学およびコンピュータ技術 14位 東京大学 15位 東北大学
生命科学 17位 東京大学
自然科学(物理学・化学) 2位 東京大学 12位 京都大学
社会科学 なし
自然科学で東京大学の世界第二位が光ります。
最後は、科目別のランキングTop20です。
物理学 4位 東京大学 18位 東北大学
化学 2位 東京大学 4位 京都大学 7位 大阪大学 11位 東北大学
数学 なし
地学 11位 東京大学
電気工学 なし
計算機科学 なし
土木工学(環境工学を含む) なし
機械工学 なし
化学工学(エネルギー、燃料を含む) 1位 京都大学 12位 東京工業大学
物質科学 2位 東北大学 13位 東京大学 17位 大阪大学
なんと、私が卒業した京都大学の化学工学が、世界第一位にランキングされていました!!!
正直、これは驚きました。
(←これが書きたかったのだろうと言われれば、はいそうですというしかありません:^^)
現在の京大化学工学教室の先生方は、お世辞でなく本当に優秀な方ばかりだと思っているのですが、あまりに身近なために自分と比べて・・・とかの下らないレベルでしか考えていなかったものですから、客観的な評価で世界第一位にランクづけされたと知って、びっくりです。
それから、化学では東大2位、京大4位をはじめ、20位以内に4大学がランキング入りしました。
最近、日本人がノーベル化学賞を相次いで受賞していますが、その研究が行われた時代だけでなく、現在でも日本の大学の化学研究は、その伝統を維持して世界をリードし続けていることがよくわかります。
また、物理学、物質化学でも、東京大学、東北大学など日本の大学が世界的に高く評価されています。
一方で、電気工学や計算機科学(Computer Science)あるいは機械工学といった科目では、残念ながら日本の大学は世界のトップ20に入っていません。
日本の電器製品や自動車は、今や世界をリードしていますが、それは企業の研究開発が優れているのであり、それに比べると大学での研究はやや見劣りということなのでしょうか。
一方でその逆に、化学分野で大学がこのような高い評価をされているのに、日本の化学企業は電器や自動車の企業に比べると見劣りすると取られるのは否めません。
しかし、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル、リチウムイオン電池といった最新の電化製品の部材・部品は、日本の化学企業がきわめて高い世界シェアを持っているものも多く、実は一般消費者からは見えないところで日本の化学企業はがんばっているのです。(←宣伝っぽくなりましたが:笑)
(あ、現在の私の仕事は従来型の石油化学分野です。)
最後に、ちょっと考察というか、雑感。
台湾や中国、韓国、インドなどの優秀な高校生は、このようなランキングを見て留学先を決めるのでしょう。
そして、その多くがアメリカの大学に入学します。
彼らが優秀な研究成果を出すと、その結果としてランキングが高くなり、世界からさらにまた優秀な学生が集まります。やがて町に残る人やその人たちを当てにした商売人も集まってきて、コミュニティーができてより住みやすくなり、また学生が来やすくなる。
こうして、やや米国の一人勝ちのような状況が生まれてきているのだろうと思います。
そんな中、ちょっと驚くことは、シンガポールの大学が高い評価を受けていることです。
National University of Singaporeは、数学で11位、電気工学で3位、計算機科学で6位、機械工学で13位、化学工学で4位、物質科学で3位と、広い範囲にわたって驚くべき高いランク付けを受けています。
ほとんどの日本の大学は完敗です。
シンガポール政府のしたたかな戦略が功を奏していて、おそらく、中国人および中国系アジア人の優秀な学生がシンガポールの大学に押し寄せているのでしょう。
また、国として英語を使用していることも、論文を英語で書く科学技術分野での大きな強みになっています。
一方で、日本。
学生が海外の大学に留学する数が減少する一方だそうです。
2年前、ボストンに出張に行ったので、ついでにハーバード大学とマサチューセッツ工科大学に行ってきたのですが(・・・単なる観光で、しのびこんだだけです:笑)、東洋人の若者が結構いました。しかし、現地事情に詳しい人に聞くと、ほとんどが中国人か韓国人で、日本人は非常に少ないとの話でした。
一般に現代の日本人は中国人・韓国人と比べて上昇志向が強くない上、日本の企業に就職することを思うと、海外の大学を卒業することは決して得にはならない、という打算もあるのでしょうね。
私の周りには、たまたまケンブリッジ大卒、ロンドン大卒、インペリアルカレッジ卒(みんな英国の大学ですが)の日本人がいたのですが、その全員が家族の都合で海外に住んでいた人です。
大学での授業も日本語で行われるので、海外の学生はなかなか留学しづらいでしょう。
教科書も日本語、日本語の学会誌もあるから日本語で論文も書けるし、学会発表も日本語だし。
教育・研究の全てが自国語で完結するということは、他の国ではほとんどあり得ない非常に恵まれた特性である反面、それが日本の大学のランキングが上がらない大きな要因のひとつと思います。
(どこかの理系の大学で、授業も研究も全部英語でやって海外の学生を集めるところとかが出てきたら、面白いかもしれません。)
その中で、京大化学工学が世界第一位を獲得したというのは、素晴らしい結果ですねぇ。
(・・って、結局最後までそこか?失礼しましたー。)