福島第一原発 化学工学会の「緊急提言」の胡散臭さ | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

福島第一原発の事故に伴い、私が所属している学会「化学工学会」が、

「大震災による東日本の電力不足に関する緊急提言」

を公表しています。

http://www.scej.org/content/view/1160/27/

この提言では、

① 東京電力が電気を送っている地域の電力を、他の電力会社から送ってもらったり、太陽電池や燃料電池を使って、家庭やオフィスで電気を創る。
② 家庭や企業における、さらなる節電を行う。
③ 電気を使う時間をずらしたり、使う場所を移動する。

として、以下のような施策を具体的に提案しています。

2.電力供給力の増強
2-1.太陽光発電
2-2.蓄電技術
2-3.風力・エネファーム・その他分散電源
2-4.防災用自家発電装置

3-1.機器による電力需要の削減
(A) 冷蔵庫(買い替え促進、節電協力)
(B) 照明(買い替え促進、消灯)
(C) エアコン(買い替え促進、フィルタ掃除、節電)
(D) 電気ヒートポンプのガス化(オフィス・家庭)

3-2.行動・ライフスタイルの変化
(A) 自動販売機の夏季期間またはピーク時間帯停止
(B) オフィス・家庭のパソコン利用の工夫
(C) 電力ピーク時の電車の間引き運行
(D) 待機電力の削減
(E) テレビ視聴の停止

4-1. 電力需要の時間的シフト
(A)休日のシフト
(B)勤務時間のシフト
(C)昼休み長時間化・在宅勤務・フレックスタイム制の推奨

4-2. 電力需要の空間的シフト
(A) サーバー類を西日本や北海道へ移設
(B) 居住地変更
(C) 高等教育における国内・海外留学・インターンの促進
(D) 他地域への観光誘導

さらに、わかりやすくマンガを使ってまで説明されています。
http://www.scej.org/content/view/1217/27/


この化学工学会の提言を、今週の『週刊金曜日』が
 「時間的・空間的シフトで電力不足は乗り越えられる」
と、1ページを使って好意的に紹介しています。

週刊金曜日の姿勢として、「問われているのは、これからの生活をどう変えるかということ。究極はそこに行きつく。」という考えが、節電や電力のシェアを唄ったこの提言と一致したのでしょう。


しかし私は、化学工学会の一会員として、この提言にずーっと胡散臭いものを感じていました。

内容的には、中には休日や夜間に働くようにせよとか居住地を変更せよとか、労働者の生活を無視した内容も含まれている半面、まぁ悪くない部分も多いです。

問題は、なぜこのような提言を化学工学会が「緊急に」行ったのかということです。

地震が起きたのが3月11日、この提言が発表されたのが3月28日。
実は、学会会員にはこの提言に対する意見を問うメールが、公表の数日前に送られてきていました。

何という素早い対応なのでしょうか。

この提言の案を見たとき、私が真っ先に感じた疑問は、今年の夏に電力が不足することが当たり前の大前提になっていることでした。
東京電力は、当初の発表で夏場の電力供給量を4650万kWとしていましたが、それを何の疑いもせずに受け入れて、需要者に節電を呼びかける内容になっています。

東京電力は、案の定、揚水発電などをわざとカウントしないことで供給能力を過小に発表していたことがばれて、4/15になって供給能力を5200万kWに上方修正しています。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201104/2011041500586

提言は4/13に改定されていますが、(当然ながら)東電の発電能力は4650万kWのままです。

それに、そもそも化学工学会は、対象としているエリアが広すぎて、領域をまたがる研究者たちの交流も少なく、あまり統一感のない学会なのです。それが今回、おそらく初めて、「学会としての提言」をこんなに素早く行うというのは、何なのだろうと疑問に思っていました。

さらには上手なイラストを使って、一般人にまでわかりやすく説明するなど、今まで見たことありません。
なぜこんなに力が入っているのだろう??

そんなこともあって、原発のことばかり書いている私のブログなのに、この身近な話題については書く気になれなかったのです。


その疑問が、今週の『週刊金曜日』の別の記事によって氷解しました。

『原発を推進した「御用学者」たち』という記事で、御用学者リストが掲載されたのですが、その中に、
 小宮山宏 東京大学元総長
の名前が。

・・・あ、そうだったのか。

小宮山先生は、もともと東大化学工学科の教授で、私の学生時代に研究テーマが重なっていたこともあるので個人的に印象の深い方です。その後、東大の工学部長、総長にまでなられた、化学工学会の重鎮でもあります。

この小宮山氏が、昨年は原子力委員会の委員を務め、現在は東京電力の社外監査役になっていると。

そして、調べてみると、提言を推進したと考えられる梶川裕矢 東京大学特任講師は、まさに小宮山氏の弟子のようで、共同の論文が多数あります。


わかってみれば、単純なからくり。

原子力発電を推進する原子力委員会の元委員で、かつ東京電力の社外監査役の小宮山氏が、弟子の梶川氏に、「原子力発電がなくなるとこんなに大変だ」と宣伝する提言をまとめて、原子力産業との関係が見えにくい化学工学会の名前で発表するように指示した、という構図が見えてきました。

もちろん、化学工学会らしい提言も中には散りばめつつ・・・。


個人的には、疑問が解けてちょっとすっきりしました。

しかし、どこもかしこも、何ともがっかりすることばかりですね・・・。