トランス脂肪酸 (その3) | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

「トランス脂肪酸」というタイトルなのに、なかなかそんな話にならないシリーズの第三回目です(笑)。


動脈硬化などとの関係が指摘されているトランス脂肪酸って、何?

マーガリン、ショートニングって何? どうして常温で固体なの?


ということを、遠回りでも基本から解説して理解してもらおうという野心的な試みです。


小難しい話だけではなく、興味をつないでもらうために、話がすぐに脱線します。

化学になじみの少ない方は、以前の回を先に読まれることをお奨めします。



その1は → こちら

その2は → こちら


ここまで、原子のすべての手が、隣の原子と「手」を一本ずつ出して結合している炭化水素を見てきました。


今日は、隣の原子とお互いに手を2本ずつ出して結合するケースを考えます。


 

水素原子は手が1本しかありませんので、2本の手の結合はできません。

したがって、炭化水素(炭素原子と水素原子とだけでできている化合物)では、炭素どうしが2本ずつ出し合う場合だけを考えることになります。


このような手が2本の結合を「二重結合」といいます。

一連のお話では省略しますが、お互いに手を3本ずつ出し合った「三重結合」もあります。

そして、二重結合と三重結合とを合わせて「不飽和結合」、不飽和結合を分子の中にひとつ以上持った炭化水素を「不飽和炭化水素」といいます。


・・・不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)など)の不飽和はまさにこの意味で、分子の中に二重結合を持っていることを示しています。

 


これに対し、全ての結合が手が1本の結合(一重結合)だけでできている炭化水素を「飽和炭化水素」といいます。(これ以上溶けきれないことを表す飽和と、言葉としては同じですが、物理化学的な意味は異なります。)




 

さて、


最も簡単な不飽和炭化水素はエチレンです。エチレンはこのような分子です。




ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)-エチレン

http://www.geocities.jp/chemacid/chembase/organic/beginner1.htm   からお借りしました。)


 

炭素原子がふたつ。それらが、二重結合で結ばれています。図では、二本の線で表しています。

ひとつの炭素原子は手を4つ持っていますので、残りのふたつの手は、それぞれ水素原子と結合されています。


ここで大事なことは、一重結合の場合と違って、二重結合は回転せず、固定されていることです。


そして、その結果、炭素-水素間の結合の角度も固定されて、結局、エチレンを構成している6つの原子は、全て同一の平面上にあることです。(これは、のちのち重要になりますので、覚えておいてください。)


(おさらいです。一重結合の場合は、正四面体の中心から頂点の角度でつながっていて、結合の手を軸としてくるくる回転できます。)

 

 



さて、いきなり例によって脱線します。(なかなかトランス脂肪酸には近づかない;笑)

 


不飽和結合を持った炭化水素は、その不飽和結合を解いて隣の分子とつながることを繰り返し(これを重合反応といいます)、長くつながった巨大分子(高分子化合物)を作ることができます。


 

エチレンが重合してできた高分子化合物が、ポリエチレンです。


聞いたことありますよね?「ポリ」とは、たくさんという意味の言葉です。たくさんのエチレンだから、ポリエチレン。


エチレンは常温常圧で気体ですが、高分子になると固体になります。

一般にいうプラスチックのひとつです。ちなみにPlasticとは、辞書で引くとまず「可塑性のあるもの」(これまた難しい言葉・・・)という意味が出てきますが、「思い通りの形にできる」くらいの意味だと思います。


 

ポリエチレンは最も安価なプラスチックであり、レジ袋や、透明な使い捨ての袋(「ビニール袋」と呼ぶ人がいますが、間違いですよ!)、お菓子の外側透明フィルム、食品用のチューブ、バケツや灯油缶、シャンプーなどなど、さまざまなものの容器、雑貨等々に広く使われており、身の回りにあふれています。




 

そして、もうひとつ脱線。


 

エチレンプラント」という言葉を聞いたことはないでしょうか?


単純には、もちろんエチレンを製造する工場のことです。

しかし、エチレンプラントではエチレンだけを製造するのではありません。同時に、次に出てくるプロピレンやブテン類、ベンゼンなどの芳香族炭化水素と呼ばれる化合物(その構造式から、いわゆる「亀の甲」と称される)など、いろんな化学製品(中間物)が同時に製造されます。


 

日本の「石油コンビナート」では、たいていの場合、「製油所」と「エチレンプラント」が中核になり、そこにポリエチレン工場など、エチレンプラントの製品を原料にした多種多様の製品を製造する工場が集まっています。

たとえば、鹿島、千葉、川崎、四日市、大阪、水島、岩国大竹、大分に、石油コンビナートがあります。小学校の地理で習いますよね。


・・・このような工場群の夜景が意外にも美しく見えることを見つけた「工場萌え」は、数年前から話題になっています。私もブームにつられて買っちゃいました。(いつでも見れるのに・・・:笑)



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製油所では、原油をナフサ・ガソリン・灯油・重油などに分離します。エチレンプラントでは、そのうちのナフサを原料として、化学反応(分解反応)によりエチレンを製造します。


中東では、安価なエタン(前回登場)を原料にしたエチレンプラントが多く建設されてきており、日本のエチレンプラントの競争力が、したがって、石油コンビナートの存続そのものが課題になってきていることは、知っている方もおられるかと思います。

 

 



さて、本題に戻って。

 

炭素数が三つの不飽和炭化水素は、プロピレンです。こんな形。


ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)-プロピレン


エチレンの場合に水素原子が4つあったうちのひとつが炭素原子になり、次いでそれと3つの水素原子が結合しています。

この場合、二重結合の炭素原子2つ、およびそれらの炭素原子に直接結合している水素原子3つと炭素原子1つとは同一平面上にあります。




で、お約束の脱線。


 

プロピレンが重合したプラスチックは・・・、そう、ポリプロピレンです。


ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)とはよく似たプラスチックです。

なかなか見た目で区別は難しいですが、一般には、PPの方がやや硬く、耐熱性が高いです。


用途も、容器やフィルム、包装材料、家電製品やおもちゃ、雑貨など、PEとかなり重なっています。。

自動車の内装やバンパー、繊維としてカーペットやロープにも使われます。(PPだけではなく、他の化合物も使われているので注意。)



リサイクルマークの横に、PEとかPPとか書かれていますので、何なのか知ることができます。




 

さてさて、炭素原子数が4つの不飽和炭化水素は、ブテンになります。


ブテンではブタンの場合と同様に、分子構造が異なる分子が出てきます。


ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)-ブテン

 


上図のように、炭素原子のつながり方、および不飽和結合の位置によって、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン(イソブチレンという呼び方の方が一般的)になります。


 

さらに、2-ブテンには、シス型とトランス型とがあります。(ようやくトランス脂肪酸とのつながりが出てきた!

 


先に、二重結合は固定されていて、回転できないと説明しました。

-ブテンの場合、二重結合の両側の炭素原子のそれぞれに、炭素原子が1個と水素原子が1個、結合しています。


エチレンの場合と同様、これらの6つの原子は、同一の平面上に固定されています。


そして、二重結合から見て、炭素原子が同じ側にある方を「シス型」、反対側にある方を「トランス型」と呼びます。

二重結合は回転できないので、この位置関係は固定されていて、これらは別の物質であり、融点や沸点などの物理化学的性質も異なります。


 

 

 


さて、ようやくトランスが出てきたところで、長くなりましたので今日はこの辺で。


次回はやっと脂肪の話に入れそうですね?(遅い!)



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