娘が小さい頃、妻もトムの仕事を手伝っていた為、頻繁に私の実家に預けていた。



父は、孫娘を宝物のように愛してくれた。

(子である私の頃は鬼だった)




やがて娘が空手をはじめると、父は毎日のように道場への送り迎えや稽古の見学をした。




泣いた娘を慰めたり、頑張りを褒めたり、帰りにお菓子を買ったり。

空手と道場が大好きになるよう育ててくれた。





そんな父だが、孫娘の試合を観に来ることはほぼなかった。




恐らく、可愛い孫娘が相手に攻撃される姿を見ることができなかった為だ。




何回か、型の試合だけは観に来た。




型の試合なら相手に直接攻撃されない。




それと、父は孫娘の型が大好きだった。





いつだったか父と2人で酒を飲んだとき、




トムは酔いに任せて、自分のロクでもない今までの親不孝を詫びたことがあった。




『お前の親孝行は、孫たちに会わせてくれた時点でもう終わっている』と言われた。




半年前にその父親が逝き、トムは長いこと引きずっていた。




トムは案外、ファザコンだったのか。




何かをやろうという、気力が出てこない。




何度墓参りをしても、切り替えられない。




『親父にもっと何かしてやれなかったのか』




『俺にやれることはやった』と無理矢理考えるようにしたのだが。




やってないことは自分がよくわかっているから、腑に落ちるはずが無い。




自分に嘘をついてもわかる。





追い打ちをかけるように、生まれて初めての『ぜん息の発作』が出た。




年明けから、丸2カ月運動出来ず。




ウォーキングしただけで、呼吸もゼーゼー。




そこへ舞いこんだ、空手道場の型試合の案内。





『型なら発作は出ないかも』




2年前の型試合、トムは『優勝する宣言』をしつつ決勝で敗退していた。





ぜん息が落ち着いてきたこともあり、




トムは優勝し、亡き父に報告することを決めた。




前に進むきっかけを作ろう。



(つづく)