ひばり整骨院は、院の隣の建物にスタッフルームを借りている。
スタッフの皆の着替えや休憩、面接や洗濯、ミーティングも、スタッフルームで行う。
それにより院内で治療スペースが広くとれる上、清潔に保たれるのだ。
おまけにスタッフの皆にも、しっかりと休憩しリフレッシュして貰える。
月々の経費はもちろんかかるが、ちゃんと経営指導を受け決断したのだ。
そのスタッフルームの大家さんは、建物の2階に住む「ユキ」さんである(87歳女性)。
ユキさんは秋田弁である。
半世紀以上東京にいても、秋田弁だ。
ブレないのだ。
ユキさんは自分のことを「オレ」。相手のことを「オメ」と呼ぶ(87歳女性)。
相当、男前だ。
短気でせっかち、高血圧なのに、明太子ご飯を塩分濃いめの味噌汁で流し込む豪傑である。
ひばり整骨院の予約優先制をものともせず、ノーサインで乱入し、治療終了は「もういいよ」と自分で勝手に決めて去って行く。
その日の夜には「オレ、今日来たっけか?」と、院に入れ歯無しで乱入してくる。
10年以上前に旦那さんに先立たれ、お子さんもいないから自由気ままである。
電球だけでなく電池の交換まで、院に乗り込んで依頼しに来るのだ。
テレビ映らねえんだと騒いで来て、様子を見に行けばコードが差さっていないこともある。
それなのに、コードを差しただけのトムに大量のお土産(アリナミン)を持たせる。
トムの子どもたちを連れてこいと騒ぎ、可愛いがってくれるのは良いが、R-1のドリンクを1人4本くらい飲ませる。
「そういう飲み物ではない」と伝えても、「オメ、ヤカマシーナ!」と怒られる。
そんなユキさんに、トムやスタッフは10年以上振り回されてきた。
ただ、ユキさんが何をしても何だか憎めないのである。
ユキさんが毎年確定申告をお願いしている友人が入院してしまった。
ユキさんが途方にくれていたので、この度トムが代わりにユキさんの確定申告を手伝った。
もう1か月前のことですっかり忘れていたのだが、今日トムが院にいなかった時を狙いユキさんが何やら持ってきたようだった。
ビール券をトムに渡してくれと置いていったらしい。
ユキさんはシャイメンだから、トムがいない時に来るのだ。
青色申告の件や他の色々お世話になりまして
厚く厚くお礼申し上げます
今後とも又、何かとお世話になる事と思いますので宜しくお願い致します
と、ビール券の封筒に書いてあった。
シャイで、律儀である。
確か1か月前には、トムに「オレが一年後も生きてたらオメ、また頼むよ!カカカカ!」と笑っていた。
男より、男前だ。
懐かしい昭和の男前なのだ。
ユキさんが憎めないのは、秘訣がある。
ユキさんはシャイで短気で気分屋だが、「ありがとう」と「ごめんなさい」をちゃんと言うのだ。
そこが素敵なのだ。
ユキが来年も生きてたら、オメ、トムがまた手伝ってやっかんな!