「若いんだからカラオケにも行きたいだろう、
青春も謳歌したいだろう。いろんな事を我慢して、サッカーに打ち込んでこそ、栄光が勝ち取れるのだ」
青春も謳歌したいだろう。いろんな事を我慢して、サッカーに打ち込んでこそ、栄光が勝ち取れるのだ」
神様ジーコの言葉である。
今も現役の大久保嘉人選手が、若かりし頃自分の部屋にこの言葉を貼っていたらしい。
トムは20代半ばに、整骨院で修行をはじめた。
朝から夕方まで整骨院で働き、夜は整骨院の先生になる資格を取るため、専門学校へ通った。
時給は、800円位だったと思う。
それでも、専門学校の同級生たちに比べかなり高い給料だった(周りは月5万とかだった)。
時給で貰えるだけ、恵まれていた。
トムは「30歳までに開業する」と決め、仕事に貪欲に取り組んだ。
大学卒業後に就職した会社を辞めての挑戦だったので、自分より若い先生が患者さんを施術している姿を見ながら、「見習い」をしていた。
院長に認められる為、朝1番に出社して仕事の準備をした。資格もなく役に立てない自分が、院の中でどうやって役に立てるかを探した。
患者さんに認められる為に、皆さんの特徴や治療のポイントを覚えた。ブサイクな笑顔だが元気良く、患者さんの本当のニーズは何かを探った。
それらをしながら、先生たちが患者さんに伝える話の中で、何が患者さんに響いているかを観察した。
トムは治療に関して素人だったから、患者さんの反応が素直に見えたのだ。
専門学校では、国家資格に必要な知識の勉強は後回しにした。後で1人の時間に覚えられるからだ。
それよりも学校の先生の話の中で、患者さんへの治療や説明に使えそうな良い話を熱心に聞いてメモし、現場で使ってみた。
開業というゴールを決めたことで、物事の優先順位が決められたのだと思う。
以前に就職していた会社よりも、人として大切なことを学べている気がして充実していた。
院長は厳しかったが時に優しく、将来どんな治療家になるべきかを説いてくれた。
知識が無くても叱られなかったが、マナーがなっていないと喝!が出た。
トムは、デスクワークでなく体も頭も使って働くことや、楽になったと喜んでくれる患者さんの笑顔が嬉しかった。
給料は高くないが、トムの将来に役に立つ修行だった。
とは言え、整骨院での仕事が終わってクタクタで専門学校をサボることもあった。
悪友と飲みに行ったり、少ない給料を握りしめてパチンコに行ったりすることもあった。
若く未熟なトムは、「遊びたい」という誘惑にしばしば負けていた。
当時の院長は、そんなトムの未熟さを見抜いていたに違いない。
トムは要領が良いほうだったので、叱られることは少なかったのだが。
ある日、新聞の切り抜きを渡された。
それが、「ジーコの言葉」だった。
トムは、目が覚めたことを覚えている。
自分は弱かった。甘いほうに流されていたと痛感した。
目標は、「夢」ではない。
達成するかは、自分次第だ。
その日から、「治療ノート」を作り裏表紙にジーコの言葉を貼った。
その後トムは運良く人に恵まれ、30歳で開業し
今年11年目を迎えた。
そして今、院には20代半ばのスタッフが3人もいてくれる。
素直で、とてもよく働いてくれる。
だがトムは、君たちに「目標」を定めて欲しい。
日常が変わるからだ。
だからトムは、あの「治療ノート」を探していたのだ。
組織にとって、言われたことしか実行しない部下は役に立たないどころが組織の命取りになる。こういうタイプの人間が増えれば増えるほど、その組織は発展していく力を失っていく
(これもジーコの名言である)
トムは君たちに、うるさいオヤジと思われても良い。
君たちの父として、君たちを正しい方向へ導く為に喝を入れる。
トムは君たちの壁になり、君たちをはね返す。
君たちは、トムの壁をいつか乗り越えろ。
本日の昼休み、トムは飯を食おうとスタッフルームに入った。
ちょうど20代半ばの3人が、食事をしながら盛り上がっている。
「トム院長のー、好きだった給食ってー、何すかー?」
どうやら「好きだった給食」シリーズで盛り上がっているらしい。
合コン(死語)か!
トムが、揚げパンと答えようとしたその時。
「脱脂粉乳とかっすかー?」
喝!
戦後か!