トムの頭に、輝かしい記憶が蘇った。


今から約4年前、次男が2才当時である。

仕事中、ふとケータイを見たら妻から電話があった。
折り返すと、「次男の肘が抜けた」と動揺していた。

多分、肘内障(肘の亜脱臼)のことを言っているのだろう。
強く腕を引っ張られたに違いない。


予約の合間に自宅に戻ると、家族皆で大騒ぎしていた。

案の定、肘内障だ。
ちょちょいと次男の肘を戻してやった。
トムの得意な仕事だ。

そして、整骨院に戻った。


夜自宅へ戻ると、トムは家族から今までにないほどの好待遇を受けた。
 

家族皆、初めて「頼りがいのあるトム=父」を見たのだ。


あれ以来、トムに復権のチャンスはない。

皆、肘が抜けることなくスクスクと成長したのだ。


ところが本日、娘(反抗期)が帰宅したトムに寄ってきた。

学校で膝を打撲したらしい。

月末に空手の型の大会を控えた娘は、不安そうに足を引きずっていた。


チャンスだ。

トムは不謹慎にも、ほくそ笑んだ。

まず、娘をリラックスさせ、ケガした時の様子を聞き、診断し、治療をした。

そして今後の注意点を説明し、安心させた。

娘は、安心した様子で風呂へ向かった。

「あんまり温めるなよー」トムは優しく声をかけた。 

「反抗期とは言え、不安だったんだ。可愛いもんだ」と、トムは美味いビールを飲んだ。

あいつも、父の仕事がどんなものかわかってきたかな。


(約8年前、今の空手の先生である小原先生と河原でフリスビーをする娘)



トムは、娘の風呂後、膝にアイシングをしようと思っていた。

今日はまだ、冷やしたい。

ところが、風呂が長い。 

患部を心配したトムは、娘の入浴後すぐに冷やしたかったから、アイシングの準備をして娘の元へ向かった。

「おーい、温めすぎると良くな…」

「チョット!アケナイデヨネ!」

「いや、すぐ冷やさないと熱を…」

「キモ!」

「キモくはない、試合に…」

「ウザ!」


トムは一旦、引いた。

トムも悪かった。

いつも全裸で歩き回ってるくせに。


娘が落ち着いてから、トムは諭した。

「おまえ、ウザはダメだよ」

「ウザはあまり出さないよ。レア語だから」

と、パンツを履いていない生尻で屁をこきながら娘は言った。



トムの中で、何かが崩壊した。

「おまえ、生はダメだ!」

生の屁、それがまさにレアだ!



(服は着てくれたが、笑顔はない)