トムの娘は、小学5年生。

反抗期真っ盛りである。

反抗期は別に良い。トムにもあった。

娘は元来、気が強い。

トムも男の子のように育てた。

空手をしているのだが、試合を観ていた知らない人に「狂犬のようだ!」と褒められたことがある。

子供部屋から悲鳴が聞こえ駆けつけると、長男が娘のひざ蹴りでのたうち回っていたこともある。


(突きを出しまくる娘。これはトムでも耐え難い)


そんな娘が4年生の時、塾に行きたいと言った。
 
「みんな行ってるから」とは言わず、
「行きたい学校がある」と宣言した。

目的に向かって頑張ることは良いことだと通わせたが、最近は塾の授業が難しいようで不機嫌この上ない。

トムは月謝を払っている上に不機嫌にされ、不愉快この上ない。


ベスト・オブ・不機嫌デーは、月1回の塾のテストのあとだ。

昨日がそのテスト日で、トムが車で娘を迎えに行ったのだが、はじめから目も合わない。


「おつかれさん。疲れたろ?」

「まーまー」

「おいおい、おれはパーパーだぞ!」

「… 」


トムを無視し、後部座席に乗り込む(助手席ではないのだ)


「テスト、どうだった?出来…」


「微妙」


車のルームミラーで、娘を見る。

まっすぐ前を見ている。


「微妙ってなんだ、微妙に良いのかそれとも…」


「ふつう」


「普通ってお前、何を基準に…」


「うん」


トムの話を、さえぎるな。


トム、冷静になるんだ。運転中だ。



「どうだ、志望校には届きそう…」


「別に」

え?

「別に志望校ない」


トムそれ、聞いてない。


これはちゃんと話しておかないと、展開によっては喝だ!


トムは車を止め、後部座席を振り返ろうとし…



「今、相棒観てるから」




運転席ではわからなかったのだが、娘は車のバックモニターで、水曜ドラマ「相棒」を観ていたのだ。

つまり、「相棒を観ているから話しかけるな。早く帰って家のテレビで観たいからとっとと車出せや」と言いたかったのだ。


娘はすでに、トムの「相棒」ではなかったのだ。


トムは黙ってアクセルを踏んだ。


決して、喝!を飲み込んだのではない。


トムも相棒を観たかったのだ。





その相棒ではない娘が、今日バレンタインチョコと手紙をくれた。

正確にいうと、机に置いてあった。

それでもトムは嬉しいのだ。



(お父さん いつも テキ と書いてある)


テキとは、「テンキュー(サンキューの意)」の略らしい。


それが一番、喝だ!!!