整骨院が暇な時間が嫌いだった。
トムが修行中の身だった頃、ボスは院内が暇になると不機嫌になった。
そりゃそうだ。
暇でも人件費は出ていく。
ボスは20人以上、従業員を抱えていたのだ。
トムはその不機嫌さを察知し、院内の掃除からはじめた。
ボスの目につくように、はじめた。
正確にいうと、掃除をしているふりをしていたのかもしれない。
ボスの八つ当たりが来ないよう、先に行動したのだ。
悪天候で院内が暇になり、ボスはノビノビすることもあった。
間違って一緒にノビノビするスタッフが大抵いて、ボスは怒った。
そりゃそうだ。
ボスは経営者で、トム達は給料をもらっている身だ。
給料をもらう時間帯にノビノビすんな。
怒られる人は、大抵同じだった。
ボスの気持ちが察知できなかったのだと思う。
トムはトム父の機嫌を観察して育った為、危険の察知が早かったのである。
理不尽なトム父に感謝した。
やがて自分が経営者になり、かつてのボスの気持ちがわかるようになった。
だが、今思うと強烈なメッセージだったと思う。
「上司の機嫌がわからぬ奴に、患者さんの気持ちがわかるか!」
時と場所はかわり、トムの整骨院の話。
水曜は、比較的静かな曜日である。
「院が暇なときほど、普段出来ないことをしよう」
トムの話の成果もあってか、優秀な当院のスタッフたちはスロータイムもよく動く。
いや、正確にいうと動くふりかもしれない。
それでも良いのだ。
彼らはトムの気持ちを察しているんだ。
素晴らしい成長だ!
院が静かな時間は、トムはスタッフたちと個別に話をします。
院長の大切な仕事のひとつです。
当院のエース、ヤングなでしこを労います。
「早く出社してよく動いて、頑張っていますね」
「ブログでネタにさせてもらって、申し訳ないと思っています。ありがとうございます!」
「あーそーなんですねー。ブログ見てないんでわかんないです!」
「お、押忍」
「連絡したから知ってると思うけど、皆にむけてブログはじめたから見てね」
見てくださいね。
その後、資料を配り全体のミーティングを行いました。
今日はトムも早く帰るぞと、皆が着替えをしている時です。
先ほど皆に配った資料が一部、院に置き去りになっています。
「これはいかん」
皆が着替えをしているスタッフルームに向かいます。
「配った資料を置き去りにしている人、誰だー?」
トムの顔色を見て、ヤングメンの顔がこわばります。
「あ、あいつです!」
ヤングなでしこを売ります。
「これはダメだよ、上司からもらった資料を置き去りは」
「えー、私ですかー?」
と、資料のプリントを手にしたと思いきや。
手に持っていた自分のコートを、プリントの上にバサッと乗せました。
喝だ!!!
本日も、トムの自律神経は乱れたのであります。
(お願い)
トムからもらった資料は持ち帰ってください。(せめて持ち帰ったふりを)
トムのブログ、たまには読んでください。
(せめて読んだふりを)
トムの顔色、たまにはうかがってください。
(比較的、わかりやすいタイプです)