お天気の良い日は河原を歩く。
歩きながら青い空を見て
気持ちの整理をする。
半年ほど前のこと。
あまりに清々しい天気だったので、
立ち止まって、川と遠くの山を背景に
いつものように空をスマホで撮った。
再び歩き始めたとき、
私より年配と思われる女性から
すれ違いざまに話しかけられた。
「あの尖った高い山は大門山、
その横にある3つの瘤のような山は
タカサブロウヤマですよね?」
咄嗟にそう言われて
私は頭が真っ白になった。
突然だったのと、
山のことは何も知らなかったからだ。
山といえば若草山か富士山くらいしか
咄嗟には浮かばない。
「スミマセン、私は山のことは
何も知らないのです。」やっと答えた。
彼女は、
「山の写真を撮っておられたから
よくご存知なのかなと思いまして」と言った。
「いえいえ、何となく
きれいだから撮っていただけなんです」と私。
私はスマホでその山の名前を検索した。
どちらの山もはっきりと画像があり
説明がなされている。
山の名前、ちゃんとあるんだな。
当たり前のようだが考えたことがなかった。
2人でスマホの画面を見ながら
「なるほど」と言い、
暫く遠くの山の話をした。
わずかな時間だったが、
いろんなことを話した。
それからどちらからともなく、
それでは、と挨拶をして別れた。
今また同じ道を歩いている。
いつものように川の遥か向こうに
大門山とタカサブロウヤマが
浮き出して見える。
一度知ってしまったらいつでも
目の前に現れる。
知らなければ、
いつもの景色の中の「山」でしかない。
あの日彼女に会わなければ
私は今日も「山」を見ている。
世の中の全てのことはそうなのだろう。
知らなければ無いのと同じ。
今見ているものはいつか知った物。
それ以外は知らない物。