年の瀬。春のような日差しの日。

河原を歩いた。

河原沿いの住宅街の端にカフェがある。


ウォーキングのたびに

横目で見ながら通り過ぎていた店。

お昼時に通りがかったら

いつかここでランチをしてみたいと、

なんとなく思っていた。

ひとりランチは苦手なのだが。


先日、店の前に立てかけてあった

メニューの看板の下の方に

「お一人でもどうぞ」と

書いてあるのに気がつき、

思い切って立ち寄った。


お客は私だけだった。

入口を入ると

左手に厨房に向かうカウンター、

右手の小上がりにはテーブルが二つ。

その先は大きな窓越しに

美しい川と山が広がる。


私はカウンターに座った。

ここは以前は美大の先生が営む、

美術本の図書室のような

カフェであったそうだ。

今のカフェは落ち着いた雰囲気だが、

美術の本が並ぶカフェというのも

魅力的に思えた。

そんなことを店主とのんびり話していると。

3人連れの親子がやってきた。

家族は小上がりに落ち着き

静かなやり取りの後

其々に注文を済ませる。

漏れ聞こえる会話から

冬休みで帰省してきた娘さんとそのご両親

というところだ。

家族の穏やかな会話の響きが

こちらまで平和な気持ちにさせてくれる。


自分も、遠くの人と結婚し、

たまに実家に帰った時は、

両親が必ず暖かく迎え入れてくれたのを

思い出した。


年の瀬であり、

このような光景は

あちこちで見られるのかもしれない。

いいものだなとしみじみ思った。


素直に会話ができる家族は素敵だ。


年明けに友達に会ったら、

私はこのことを「羨ましい」と話すだろう。

そして、きっと彼女は、

「それがふつうだからね」と、

私に念を押すことだろう。

昨日、今年最後のシフトを終えて

今日から休み。

今ごろ、先の予定を

全く考えていなかったことに気がついた。

今年は習い事やボランティアを

始めたことで、煩雑な日々が過ぎ、

先のことは後回しにしていた。

後回しにしても

差し支えないことだったので。


今になって、時間はあるのに焦っている。


いつも通り早朝に

ゴミ出しに行こうと思ったが、

外はまだ真っ暗だったので後回しにした。

8時になってようやく家を出たら

いつのまにか雪が積もっている。

初雪、きれいだけど困る。

家に戻り靴箱の奥から長靴を出して履く。

ゴミ袋を持ち傘をさして歩くと、

すぐに傘が雪で重くなる。

また雪の季節が来た、、、と、少し沈む。

でも最初だけのことで

慣れれば平気になるはず。


この二年間、

都会からこの地に赴任していた人が

先日、辞令が出て都会へと帰って行った。


去年の年末、

「これから帰省します」と連絡をくれた。

その日の夜から大雪が降り始めた。


また大雨の日に

大丈夫ですかと聞いてみたら、

その日の朝から晴天のところへ

出張で来ているとの返事。


こんなことが何度ももあった。


その度に彼の運の良さを感じた。


ほとんど知らないのだけど、

彼は明るい性格だと思う。

見かけだけではなく芯から明るい。

一緒にいるだけで元気になる。


とは言っても実際に会うことはほとんど

なかった。

LINEで簡単な季節の挨拶を交わすだけの

付き合い?だった。

それだけでも

私は元気をもらっていたと思う。


私が今、軽く喪失感を感じているのは

そのせいだろう。


彼のような人が

運を呼び寄せるのかもしれない。


これからは、LINEで寒さや雪や地震や月を

彼と共有することはない。


そういえば、彼が引っ越す日まで

晴天が続き、引越した次の日から

冷たい雨が降り出したのだった。

子供は、学校から帰ってくると、

台所にいるお母さんの側に立ち、

その日にあったことを

あれこれと話す。

お母さんは手を動かしながら

へぇー そうなのね すごいね

などと相槌を打ってくれる。

子供はそれで気が済んで遊びに行く。


大人であっても。

例えば道で自転車のタイヤが

パンクしたとする。

自転車屋で修理をしてもらって帰宅したら、

家族にこの出来事を話すだろう。

大変だったね。

と短い反応で終わるかもしれない。

あるいは、パンクの原因は何だったのか、

どこで修理してもらったのか、

いくらかかったのか、

訊かれるかもしれない。


何か正解が欲しいわけではないし、

ジャッジして欲しいわけでもない。

何かの役に立てたいわけでもない。

ただ話したい。

何でもない話を聞いてくれる誰かに。


一人きりの場合は、

小さな出来事が未開封のまま

お腹の中に溜まる。

その中のひとつを誰かに話すと

その袋は萎んで消える。

話さずにおくと

それはお腹に溜まる。


そうだとしたら、

お腹周りが嵩高くなってきたのは

未開封の袋が溜まっているから

なのかもしれない。。。


日常、人に話したくなることは

特別なことではなく

何でもないこと。


そんな何でもないことを

話す相手がいない。


夜、帰宅して

誰もいない部屋に向かって

「ただいま」と言う。

暗闇から「おかえり」

と聞こえたらゾワっとするだろう。


それでも、そんな声を聞いてみたい。