「ごめんね疲れてるのに。あ、麦茶でいい?」
「あ、あぁ。ありがと」
「テキトーに座ってて」
キレイな部屋だ。インテリアはシンプルな感じだが、飾ってあるぬいぐるみや鏡などが、妙に女の子の部屋を意識させる。
「全然きれいじゃん」
「いやぁ。ま、気合い入れて掃除したからね。いつもはこんなんじゃないよ」
「そんな事言ってたら、俺の部屋見たらビビるで」
「そうなのぉ?じゃあ今度ヒロくんちにも遊び行こうかな!近いしね」
一瞬答えに詰まる。
「ん、んーと」
「あ、でもヒロくん彼女いるんだっけ?まだ続いてるの?」
「うん、まぁ」
「そっかぁ、それじゃそんなことしたら怒られちゃうね」
「うーん、そうだなぁ」
難しい。女って何考えてるのかホントにわからない。
「で、パソコンはこれ?」
ヒロは話題を変えようとエミに尋ねた。
「あ、うん。ホント機械には弱くて」
「うん、じゃあちょっと待ってて」
「ありがと」
変に意識したらダメだ。あっちはネットにつないで欲しいだけ。
ヒロはそう思い込むように心の中でとなえ続けた。
結局エミの家に来た時点で、何らかの期待をしてしまったのは否定できない。
ただ仲良くなりたかったのか、マサへの見せつけか、もしくは別のものなのか。
考えるのはよそう。作業が終わったらすぐに帰ろう。
ここにきてヒロの罪悪感の意識はかなり大きくなっていた。
「よし、これでオッケー」
「えっ、もうできたの?見せて見せて」
エミが顔を近づけ、画面を覗き込む。それだけなのに必要以上に身構えてしまう。
「あっ、ホントだ!すごーい!やったぁ、本当にありがとう!」
そう言ってエミはヒロの手を握った。
「お、おぉ、こんくらいならね。気にしないでよ」
「ううん。よかったぁ、ヒロくんが今日話しかけてきてくれて」
サラッサラの髪に白い肌。風呂上がりか知らないがシャンプーの香りが漂ってくる。
近くで見るとホントキレイな顔してんなぁ。
ミユがカワイイ女の子って感じならエミはキレイなモデル系ってとこ?
あ・・・
急にミユの悲しむ顔が脳裏をよぎった。何やってんだ俺は。
「あ、じゃあ俺、帰るね」
「えっ、あ、もう帰る?」
「うん、もう遅いし。また学校でね」
「あ、うん」
ヒロは立ちあがって玄関に向かおうとした。
「あ、ヒロくん・・・ちょっと、待って」
エミがヒロの腕をつかんだ。
「ん、なに?」
「えっと、その・・・」
その場の空気にヒロの心臓は高鳴った。
「あの・・・お願い・・・もうちょっとだけいてくれない・・・かな?
夜一人だと、ちょっと怖くて・・・」
「え━━━」
これは・・・。妄想が現実になりかけている。あるわけがないと自分で決め込んだ状況、まさに今その中にいる。
マズイ。マズイぞ。
ヒロは動揺のあまり何も言葉が出てこなかった。
「お願い・・・少しでいいから」
エミの大きな瞳がヒロを見つめる。
「いや、でも」
「・・・ダメ?誰でもいいってわけじゃなくて・・・ヒロくんだから・・・」
そう言ってエミは、ヒロの手に自分の手を絡めた。
そのままヒロの体に寄り添ってくる。
エミの体温が伝わってくる。
こんな少女マンガみたいな展開がホントにあっていいのか。ヒロの理性はギリギリのところをさまよっている。
ここで断ったら、男じゃねえだろ。そうだ、誰でもそうなんだ。
こんなカワイイ子にそう言われて、断れるヤツなんていないはずだ。
だいたい誘ってきてるのはエミの方だし。
俺は悪くない。間違ったことは、していない。
ヒロはエミの方に向きなおり、握られている手に力をこめた。
「ヒロくん・・・」
━━━後悔のないよう、ね━━━━
ドクン。
急に胸のあたりに締め付けられるような痛みが走った。
それと同時に、聞き覚えのあるセリフが思い起こされた。
な、なんだこれ。
ハッと我に返る。不思議なことに、さっきまでの迷いは消えていた。
「あ・・・エミ。ごめん」
ヒロはそっとエミの手を離した。
「ヒロくん・・・?」
視線をエミから逸らしながらヒロは言った。
「あ・・・えっと・・・。
いや、俺の彼女さんがさ、これがホントコワイ方で。
こうやって女の家にいる事がバレたら、俺東京湾とかに沈められちゃうからさぁ。
・・・ゴメンっ!自分ビビリなもんで」
さすがにそこまでの恐妻家ではないが。
「・・・」
エミは黙ったままである。
しばらくの沈黙が空気を重くする。
「だから、その・・・。ゴメン・・・」
「・・・ん。そっかぁ。そうだよね。ゴメン、急に変なコト言っちゃって
あたし、ちょっとどうかしてたかも・・・」
「いや、スマン、役に立たなくて!
えぇと・・・また学校で、ね」
そのまま逃げるように玄関へ向かい歩く。
「うん・・・。あ、パソコンありがとう」
「おう!」
そして焦ったように靴を履く。
「あっ、ヒロくん!」
「ん?」
エミの方を振り返る。
「さっきのコトは・・・忘れてね。
また、いつもどおりに、仲良くしようね・・・?」
「・・・おう、当たり前じゃん!」
「ごめんね、ありがと・・・
じゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
できるだけ、何事もなかったような笑顔をつくり、手を振った。
エミも笑顔で送ってくれたが、その顔はどこか悲しげに見えた。
「あ、あぁ。ありがと」
「テキトーに座ってて」
キレイな部屋だ。インテリアはシンプルな感じだが、飾ってあるぬいぐるみや鏡などが、妙に女の子の部屋を意識させる。
「全然きれいじゃん」
「いやぁ。ま、気合い入れて掃除したからね。いつもはこんなんじゃないよ」
「そんな事言ってたら、俺の部屋見たらビビるで」
「そうなのぉ?じゃあ今度ヒロくんちにも遊び行こうかな!近いしね」
一瞬答えに詰まる。
「ん、んーと」
「あ、でもヒロくん彼女いるんだっけ?まだ続いてるの?」
「うん、まぁ」
「そっかぁ、それじゃそんなことしたら怒られちゃうね」
「うーん、そうだなぁ」
難しい。女って何考えてるのかホントにわからない。
「で、パソコンはこれ?」
ヒロは話題を変えようとエミに尋ねた。
「あ、うん。ホント機械には弱くて」
「うん、じゃあちょっと待ってて」
「ありがと」
変に意識したらダメだ。あっちはネットにつないで欲しいだけ。
ヒロはそう思い込むように心の中でとなえ続けた。
結局エミの家に来た時点で、何らかの期待をしてしまったのは否定できない。
ただ仲良くなりたかったのか、マサへの見せつけか、もしくは別のものなのか。
考えるのはよそう。作業が終わったらすぐに帰ろう。
ここにきてヒロの罪悪感の意識はかなり大きくなっていた。
「よし、これでオッケー」
「えっ、もうできたの?見せて見せて」
エミが顔を近づけ、画面を覗き込む。それだけなのに必要以上に身構えてしまう。
「あっ、ホントだ!すごーい!やったぁ、本当にありがとう!」
そう言ってエミはヒロの手を握った。
「お、おぉ、こんくらいならね。気にしないでよ」
「ううん。よかったぁ、ヒロくんが今日話しかけてきてくれて」
サラッサラの髪に白い肌。風呂上がりか知らないがシャンプーの香りが漂ってくる。
近くで見るとホントキレイな顔してんなぁ。
ミユがカワイイ女の子って感じならエミはキレイなモデル系ってとこ?
あ・・・
急にミユの悲しむ顔が脳裏をよぎった。何やってんだ俺は。
「あ、じゃあ俺、帰るね」
「えっ、あ、もう帰る?」
「うん、もう遅いし。また学校でね」
「あ、うん」
ヒロは立ちあがって玄関に向かおうとした。
「あ、ヒロくん・・・ちょっと、待って」
エミがヒロの腕をつかんだ。
「ん、なに?」
「えっと、その・・・」
その場の空気にヒロの心臓は高鳴った。
「あの・・・お願い・・・もうちょっとだけいてくれない・・・かな?
夜一人だと、ちょっと怖くて・・・」
「え━━━」
これは・・・。妄想が現実になりかけている。あるわけがないと自分で決め込んだ状況、まさに今その中にいる。
マズイ。マズイぞ。
ヒロは動揺のあまり何も言葉が出てこなかった。
「お願い・・・少しでいいから」
エミの大きな瞳がヒロを見つめる。
「いや、でも」
「・・・ダメ?誰でもいいってわけじゃなくて・・・ヒロくんだから・・・」
そう言ってエミは、ヒロの手に自分の手を絡めた。
そのままヒロの体に寄り添ってくる。
エミの体温が伝わってくる。
こんな少女マンガみたいな展開がホントにあっていいのか。ヒロの理性はギリギリのところをさまよっている。
ここで断ったら、男じゃねえだろ。そうだ、誰でもそうなんだ。
こんなカワイイ子にそう言われて、断れるヤツなんていないはずだ。
だいたい誘ってきてるのはエミの方だし。
俺は悪くない。間違ったことは、していない。
ヒロはエミの方に向きなおり、握られている手に力をこめた。
「ヒロくん・・・」
━━━後悔のないよう、ね━━━━
ドクン。
急に胸のあたりに締め付けられるような痛みが走った。
それと同時に、聞き覚えのあるセリフが思い起こされた。
な、なんだこれ。
ハッと我に返る。不思議なことに、さっきまでの迷いは消えていた。
「あ・・・エミ。ごめん」
ヒロはそっとエミの手を離した。
「ヒロくん・・・?」
視線をエミから逸らしながらヒロは言った。
「あ・・・えっと・・・。
いや、俺の彼女さんがさ、これがホントコワイ方で。
こうやって女の家にいる事がバレたら、俺東京湾とかに沈められちゃうからさぁ。
・・・ゴメンっ!自分ビビリなもんで」
さすがにそこまでの恐妻家ではないが。
「・・・」
エミは黙ったままである。
しばらくの沈黙が空気を重くする。
「だから、その・・・。ゴメン・・・」
「・・・ん。そっかぁ。そうだよね。ゴメン、急に変なコト言っちゃって
あたし、ちょっとどうかしてたかも・・・」
「いや、スマン、役に立たなくて!
えぇと・・・また学校で、ね」
そのまま逃げるように玄関へ向かい歩く。
「うん・・・。あ、パソコンありがとう」
「おう!」
そして焦ったように靴を履く。
「あっ、ヒロくん!」
「ん?」
エミの方を振り返る。
「さっきのコトは・・・忘れてね。
また、いつもどおりに、仲良くしようね・・・?」
「・・・おう、当たり前じゃん!」
「ごめんね、ありがと・・・
じゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
できるだけ、何事もなかったような笑顔をつくり、手を振った。
エミも笑顔で送ってくれたが、その顔はどこか悲しげに見えた。