真夏の熱暑に茹だった全身に、サーっと冷水を浴びせられた快い感動に打たれました。
総合文芸誌「ら・めえる」第84号に寄稿の記録「村の記憶」。著者は元KTNの放送記者で、良質のドキュメンタリー制作で知られる山本正興さん。南島原市の一開業医の残した戦時の16ミリフィルムを見る機会を得た山本さんが、丹念に記録された出征兵士の若者の肖像の一コマごとに人間の真実を発見したリポートです。
当時、出征兵士は最寄りの島原鉄道「北有馬駅」で村人たちに「バンザイ」で送られていました。フィルムを見ると、撮影者の開業医・原口徳寿医師は、その度ごとに撮影に出かけているようです。医師はその際、なぜか兵士一人ひとりの顔のアップを執拗に撮り続けているのです。その謎を知ろうと、山本さんは何度も何度もフィルムを見つめます。
と、フィルムに揺れる若い兵士の顔の変化に気付きます。そうか、そうだったのか…………。
原口医師の若者への共感と優しさに満ちた心情と、戦後77年の今に貴重な画像を見出した山本さんのヒューマンな心情が、さわやかに心に染みこむリポートです。
「元」が付いてもジャーナリストはジャーナリスト。放送カメラマン生活が、島原半島の旧家にのこる廃棄寸前の上質の記録フィルムを救いました。
戦争の惨禍と爪痕の失われゆく時代の今だからこそ、このフィルムが世に紹介される意味は計り知れなく、大きく尊い。
わたしも「終活」などといっぱしの大人ぶって、蔵書などの片付けに勤しむ日々ですが、近所には旧家があります。貴重な戦時の記録などもあるやも知れませんね。