長崎市の「ギャラリーEM(えむ)」が6月11日、新中川町の新しい施設で再スタートを切った。同市常盤町の旧画廊施設で昨年10月、最後のコレクション展を終えて以来約8カ月ぶりの移転再開。旧医院を新築並みにリフォームした2階建ての白一色の内・外装が多彩な美術家たちの色で染まる日々を待ち望んでいるかのようだ。1階のギャラリー空間は壁のような仕切りが施され、個展、グループ展など展示の可能性を広げた。
「移転記念展ー初夏によせて」と唱った4作家の作品展。長崎市民に未知の美術作家を紹介してきた同ギャラリーらしく、再開展も新しい息吹を伝える美術作家4人の作品を集め、技量と個性を競わせている。
熊本市の佐野直は1987年生まれ。大学で美術を学んだ後、英国に短期留学、現地の公募展で受賞。長崎初お目見えとなった本展には、15号の「連」などアクリルと油彩による山や海の風景画8点を出品した。画面は点描による色彩表現だが、放射状に散りばめた小さな白丸の地塗りが山肌を彩るドットのすき間に垣間見える。青や黒を混ぜたという空の白磁のような趣に加え、この白い厚塗りが山の端を侵すように輪郭を浮き立たせ、面白く印象に残る。地塗りや点描などの反復行為にレイヤーの効果を意図したと言い、面白さだけでなく画面作りに不作為の修行的意味を見い出している。
西海市の岡本康彰は1980年生まれ。やはり英国からニューヨークにも渡り絵画を学んだ。海外の公募展で受賞を重ねて帰国後、県展などでも活躍。アール・ビュリュット風の緻密で大胆な色使いと構図が持ち味のようだ。本展には油彩の「Wild Life In The Concrete Jungle」など9点を展示した。
熊本市の蔵野由紀子は熊本大、筑波大で美術を学んだ。一時、休筆後、熊本地震を機に画業を再開した。本展には「OKra」など10点を展示。ミクストメディアだが画面から日本画の情趣が醸し出され、本展でも別格の表現力を感じさせる。
そして福岡・小郡市の鳥越一輝。1986年生まれ。本展には素材にコールタールを使った「New-N」など8点を出品。同素材は1960年代に活躍した前衛芸術家集団「九州派」が盛んに使用した。出品作の画面からは、九州派を意識した制作活動が伺われ〝反抗と受容〟若い激情のようなものが感受できる。
新中川町は諏訪神社を控えた新大工町商店街に近い住宅地。同商店街はタワマンが建つなど再開発が進んでおり、人流の増加が期待される。同ギャラリーから徒歩で約3分の所にはノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの生家もある。ギャラリーEMは小さな施設だが、街づくりに果たす文化的役割は地域にとって決して小さくはないだろう。同展は6月25日まで。水曜休廊。
(展示作品の写真のうち佐野直、鳥越一輝両氏の作品は容量調整出来ず掲載不可となりました、お詫びします。)
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