美術展「異彩を放つ九州派~それから~2021」が28日まで「博多阪急」(JR博多駅)5階で開かれている。1960年代に活躍した前衛美術家集団「九州派」の活動を振り返る企画展。出展作家は物故者を含め、石橋泰幸、小幡英資、斎藤秀三郎、磨墨静量、宮﨑準之助、尾花成春、桜井孝身、田部光子、山内重太郎の9人。2020年10月の同所での大掛かりな九州派展に比べ、今回は作家、作品数とも絞り込んだ展示となった。その分、注目作家の作品が多くそろい、より深い鑑賞ができそう。

 

 旗頭だった桜井孝身の作品が充実している。今展のハイライトと言っていい。

 高さ190センチの木を芯にした人体像が迎えてくれた。

 木材を芯に立てて紙を貼り、アクリル絵の具を塗った風変わりなオブジェである。赴くままに引かれた荒削りの線描がどこか埴輪を思わせ、「ここは異界」と呼び掛けているように思えた。そばに広辞苑を越えるほどの用紙を束ねたでかい事典のようなオブジェが置かれていた。

 背景と左右に展示された平面作品のうち、油彩画「パラダイス」がキリストの死を嘆く人々の群像と思われ、メインの人体像のオブジェがキリストの磔刑像と謎解きができた。事典は聖書ということか。

 背中側に回って見ると女人像を思わせ縁取りなどが施され、モチーフに妊婦の土偶、あるいは彼の妄想的持論「キリスト女性説」があると思い至った。

 平面では1980年の油彩「天使」や「ダンス」が同テーマを補強。アクリルや水彩の平面作品が並び、60~80年代の彼の思惟の営みと表現の多様性を伺わせている。

 

 同じコーナーに、斎藤秀三郎の版画と斎藤の〝同志〟だった磨住静量の抽象画の小品が並べられていた。

 斎藤はモノクロであり、磨墨の色彩も墨の黒を基調に、黄、紫、赤の水彩絵の具の斑模様。絵具を流したバケツの水面に用紙を被せて写し取った「無題」は、2匹のナマコのような形状が画面に貼り付いていた。画面を凝視すると、色彩面の上には更に1ミリに満たない極小の点描が散りばめられていた。展示数は1984年から95年の小品9点。桜井が放つ荒々しい空気を一掃、この展示コーナーの一角に落ち着いた雰囲気を漂わせている。

 磨墨は1957年に九州派に加わり、前衛美術を追究、中でもアカデミズム派とされていた。59年の九州派離脱後、穏やかな色彩と画面を深めていった。福岡市警固に住み、博多織の図案を描いていたという。2001年、がんで亡くなった。

 

 桜井の赤色主体の攻撃的な絵画やオブジェに対して〝静の気〟を放つ磨墨と斎藤。九州派の静的志向を代表する作家といえるが、九州派を知る東京在住のある美術家は、「九州派の面白さは彼らの存在があってこそだろう」と評価していた。九州派作家たちの仕事の奥は深い。価値を支える作家群にもっと目を向ける必要があるようだ。

 

 「異彩を放つ九州派~それから~2021」は、26日に閉幕した「アートフェアアジア 福岡2021」などの現代美術展を併催する「HAKATA ART STATION 2021」(28日まで)の一環。 上3点は桜井のオブジェと油彩。下2点は磨墨の作品閉幕した「アートフェア」は現代アートのバザールとして初の阪急博多での開催だった。