長崎県立美術館に池野清展を見に行きました。
池野展、これほど多くの作品が残されているのに驚きました。油彩だけでなく水彩や鉛筆画など、さすが県美術館だと頼もしく思ったものです。
彼独特の構図をつかみ取る契機となったのでしょうか、新発見を含む「牛と少年」「六月の牛」「足を洗う少年」「足を洗う女」など、いずれも方形の構図に画面をまとめた作品群が展観されています。何かこの世の真実の姿のようなものを、この四角い画面に見出したのでしょうか。それとも紙芝居の持つ鑑賞の原点を探るといった画面構成上の試みでしょうか、そんな妄想を楽しみながらの鑑賞です。
そして、池野清といえば名作「樹骨」があります。作家・佐多稲子が彼をモデルとして長編小説「樹影」を書く動機となった彼の大作です。前に立つと、清涼なシャボン水を浴びた感覚に打たれます。
池野展には、縦110センチ余りのこの「樹骨」1点に加えて、「木立」3点が展示されています。「木立」の大作1点は「樹骨」と同型ですが、小品2点は縦22センチ余りです。
「樹骨」は葉を落した3本の樹木が眼前にすっくと並び立ち、まるで、樹木が画家を弟子か仲間の如く迎え入れているようです。鑑賞者は画家と同じく木々と同化する姿勢になります。まるで樹木が、身近な祭壇に立つ神仏の姿・存在のようでもあります。
ところが「木立」の大小3点は、いずれも遠景の木々を写生した風景画のような趣。作者が樹木をはるかに見透かし、そして見上げているようです。これらの作品は、代表作「樹骨」を仕上げるための、まるで習作・エチュードのような見栄えです。
池野は、神か仏の化身であろう樹木に魅入られ、誘い込まれ、ついに抱かれたのでしょう。彼の病は、すでに死を覚悟の重篤に陥っていたのでしょうか。
同展は、作品すべてが具象と抽象のせめぎ合いを演じた末の画面とも思え、〝半具象の魅力〟を伝えてくれる作品群とも言えるようです。
ミュージアム・ショップでポストカード「鳩笛たち」「手」の2枚を買いました。代表作「樹骨」「木立」のカードが無くて残念でした。写真は㊧から「手」「鳩笛たち」(いずれもポストカード)、「木立」「樹骨」(同展のチラシより)