福岡在住の現代美術家、高向一成の新作を見た。(福岡・親不孝道り「ギャラリー・アートスペース獏」で今月21日まで)。
素材と形式は以前から変わることなく、薄い鋼板による長い筒。鋼板を折り曲げてボルトでつなぎ、四角い筒状にして展示場に斜めに立てたインスタレーションだ。その長さ約3メートル、幅約2メートルあったか。筒の一画15センチほど。展示にも形状にも、作家の挑戦するような意志が籠る。このシリーズは作家の代表作として印象深く記憶している。
旧作はトタン板状の素材感丸出しの作品だった、と記憶する。塗料は使わず素肌を見せ、素材感に満ちていた。が、今回はボルトでしっかりと固定したうえ、ブラウンの艶のある塗料を塗りこめた。見栄えを気にしているのか、まるで何かを隠蔽するように見える。
何を恥じることがあろう。何を飾る必要があるのだろう。4、5メートルはあった若い頃の作品のあの粗野で野蛮な仕掛けによる色と形。時代も現実も人々も透視し、真実を丸裸で表現したと見えた作品が懐かしく思い出された。
作品展のタイトルに「過去への投射」とあるではないか。〝美しい〟新作を前にして、昔の作品に思いを致すのは作家の仕掛けに嵌ったか、見ている私の老いの成せる業。新作に過去の記憶を触発されたのであろう。
だが高向の辞書に「老化」はない。過去も新作に転換可能だ。時代をドンと受け止めて作品で打ち返すのみーーということだろう。(写真は高向氏の友人提供)