政界をめぐる〝不祥事〟が後を絶たない。黒川検事長の定年延長問題が自身の賭けマージャンで一気に片付いたかと思いきや、新型コロナウイルス対策を検討する政府専門家会議の議事録が作られていない問題が発覚。新聞紙面は、まるで見出しの大売り出しのように次々と〝見出し札〟が架け替えられる。
事程左様にニュースな指導者・安倍晋三首相とはいかなる人物か。そもそも論に思いが行き、私の父親の形見の一冊「小説・安倍晋太郎 爽快なり立ち技」(大下英治著・徳間書房)を抜き出した。
著者は昭和を代表する伝記作家の一人で政界・財界人を活写した数々の作品がある。
晋三の父・晋太郎は、念願の首相の座を目前に父親と同じ肺病で倒れた。文章からは、おしゃべりで、世間受けする軽い感じの息子・晋三首相と違い、旧制高校で剣道部を率いたゆったりと構えた泰然自若型人物が思い浮かぶ。やはり一度は特攻を志願した人物ではある。
また、反骨精神に燃えた人でもあった。これは父親・安倍寛(晋三首相の祖父)譲りのようだ。寛は大政翼賛会に組みせず、東条英機ら軍閥主義に対する批判の表現として無所属、非推薦で選挙に立ち、軍部から徹底した弾圧を受けながら当選を果たしたという人物だ。
まだまだ私には「晋太郎」を語るのはもちろん、息子・晋三首相の政治に意見をもの申すこともできないが、曖昧なまま乱暴とも映る解決手法の連発を見るにつけ、決して父親・晋太郎、祖父・寛の意に沿ったものではないようには思われる。首相にはぜひ、祖父と父の命懸けの全身全霊を傾けた政治を振り返ってほしいと願うばかりだ。
ところで黒川氏が現役新聞記者、元記者3人と賭けマージャンをやっていた件。小説「安倍晋太郎」に次のような件があった。
「毎日新聞記者の安倍晋太郎は、このころ法務省記者クラブにいた。時間をもて余しているから、お決まりのように麻雀をする。メンバーが足りないと、いつも安倍を引き込んでいた。安倍も、けっしていやがらず加わった。が、そんなに強くない。金に執着がないから、負けたら負けただけ口惜しそうにもせずに払う。まわりの記者は、岳父の岸信介がついているから金の心配がいらないんだろう、と見ていた。」
フッと笑みがこぼれた。続きは読了後に――。
きょうの言葉「君子は周(した)しみて比(おもね)らず」(孔子)