NHK朝の連続テレビ小説「スカーレット」は家族・男女のやりとりで退屈していたが、今日の喜美子は迫真の演技だった。信楽芸術を究めようと、求める色を出すために造った穴窯に薪を大量にくべる。次から次へと投げ込む。炎が口から噴き出ても容赦なく、投げ入れるー。

 緊張の後の窯出しで、灰釉の緑が日の光に輝いて現れた。喜美子の引き締まった顔に笑みが浮かんだ。求めていた色が出たのだ。水差しと詩集「蛇苺」

 懐かしい星野焼の山本源太さん。交流を重ねたのは、もう30数年も前になる。長崎に来て、すっかりご無沙汰だ。

 夕焼けの日の色、「茜(夕陽)釉」が特徴の星野焼を再興させた陶工として知られている。野人のような風貌の手から、素朴でシンプルで、それでいて繊細な作品を生み出していた。福岡のど真ん中、天神のデパートでは人気の工芸作品だった。

 詩人としても活躍され、物書きの端くれには教わることが多かった。毎週のように福岡県八女・星野村に登って焼物作りの日々を見聞させてもらった。人柄も自然そのもの。ざっくばらん、笑顔の似合う人だ。「陶芸家」ではなく「陶工」で通した。

 ある日、電話があった。穴窯を造ったという。自宅工房から、かなりの距離の広場を借りて造っていた。それこそ穴を掘り、周囲に薪を山積みしていた。いつ造ったのだろう? 毎日、少しずつ少しずつ堀り、練り、木を刈り出し、鎌を振るったようだ。今も、あるのだろうか。

 私は掌に温かく収まる「涙壺」が好きな作品だった。「骨壺」も好まれていた。長崎への旅立ちの記念にといただいた「水差し」は今も部屋に座を占めている。改めて眺めると、夕陽が名残惜しそうに山の端を照らしている。源太さんの別れを惜しむ気持ちが込められていたのか、今になって気付いた。