福岡市野芥在住の画家・岡部文明さんが童話「ピエロのボーベとエナの物語」を福岡の出版社「書肆侃侃房」から出した。一読、主人公のピエロのボーベに作者の岡部文明さんの姿がダブって見えた。そして、周囲にまだ田園風景が広がるアトリエでお会いした日が蘇り、目頭がウルルンとした。

お話は仲良しのピエロのボーベと犬のエナの夢の冒険。「世界で一番楽しいところ」に行きたいと願い、眠った二人は夢の世界へ。サーカス小屋で次々と出て来る演技に夢中。そのうち団長さんに演技をしたいと願い、披露する。

お馬さんの背に立ち、ラッパを吹きながらパカパカ。象さんの背に乗って駆け巡る。熊とも仲良く舞台を回る。そして虎とも仲良しになり、火の輪くぐりを披露させ、じゃれ合うボーベ。びっくり仰天の団長は即刻、二人を雇い、空中ブランコをやってみろと言う――。

〝ピエロを描く画家〟として知られる岡部さんは1948年生まれ。元々ラガーマンだったが事故で半身不随になった。車いすで一念発起、画家の道を目指した。作品に気負いはなく、ピエロをはじめ親しみのある画面を描いてきたようだ。

この本はピエロの心を知り尽くした岡部さんならではの物語。楽しくて、ちょっぴりピエロの哀しみも。鉛筆画と思われる挿絵が優しい。

私へのメッセージに「1989年、『いま、この人に』に書いていただいた記事を読み返して、あらためてすばらしい内容だと―』」。当時、勤めていた新聞の記事のこと。これこそ身に余るお言葉。私はすっかり忘れてしまっていたのだが、記憶にとどめていただいていた。現役から身を引いた今、とても励ましになる言葉と著書のプレゼントだった。

「ピエロのボーベとエナの物語」はA5判変形・上製、価格1600円(税別)